かつては「ごく一部の人気漫画家しか食べていけない」「漫画アシスタントは低賃金で連日の徹夜に耐えなければならない」といわれた漫画の世界だが、ここ数年はウェブ漫画配信サービス・アプリの増加で漫画家・アシスタントの数が足りず、年収が上昇し労働環境も改善されているという情報が一部で話題を呼んでいる。「そこそこのヒット作をコンスタントに出し続けている漫画家は印税だけで年収1000万円も可能」(漫画編集者)、「完全在宅ワークで徹夜などもなしで年収500万円稼いでいる漫画アシスタントもいる」(漫画アシスタント)といった声も聞かれるが、実態はどうなのか。また、賃金上昇や需要上昇の背景には何があるのか。漫画制作の現場で働く関係者への取材を交えて追ってみたい。

 漫画家・アシスタント需要上昇の背景には、漫画配信サービス・アプリの増加と同市場の拡大がある。現在「コミックシーモア」「めちゃコミック」「LINEマンガ」「ピッコマ」など数多くの電子コミックサービスがシェア争いを繰り広げており、IT関連メディア事業を展開する株式会社インプレスの調査(「電子書籍ビジネス調査報告書2024」)によれば、2023年度の電子コミック市場規模は前年度から448億円増加の5647億円。2000年代に韓国で普及したことが契機となり世界で市場が拡大しているWebtoon(縦スクロール型漫画)は、28年には世界の市場規模が3兆円になるといわれている。海外では日本の漫画コンテンツに対する注目度が高く、昨年10月には米投資ファンドのブラックストーン・グループが帝人グループから「めちゃコミック」運営会社を約1300億円で買収。日本の漫画コンテンツを北米をはじめとする世界に展開していくのが狙いだとみられている。

どれだけスピード感をもって数多く作品を出していけるか

 そんな勢いに乗る漫画業界の制作現場は今、どうなっているのか。漫画編集者はいう。

「かつては漫画の掲載先といえば紙の漫画雑誌がメインでしたが、いまは電子コミック専門の出版社も増え、集英社の『ジャンプ+』、小学館の『裏サンデー』など大手出版社が運営する独自のカラーを打ち出したウェブコミックサイト・アプリが出てきています。早川書房など、これまで漫画とは無関係だった会社も電子コミック事業に続々と参入していることもあり、感覚的な話になってしまいますが、これまで0.3倍くらいだった有効求人倍率が今では1倍超えみたいな感じになっています。

 かつては一流作家であっても、雑誌の掲載枠が少ないために競り合ってあぶれてしまうレベルでしたが、掲載枠が実質無限であるウェブ漫画アプリが増えたことで、どれだけスピード感をもって数多く作品を出していけるかが勝負ポイントになっており、『連載経験者なら大歓迎、即仕事あります』『未経験者でも画力があれば企画・原作はご用意します』『企画・構成力がなくても、画力があればネームをご用意します』といった募集が増えています。必然的に漫画アシスタントも仕事が増えていますが、依然として最低時給レベルの仕事が多く、『ものすごく稼げる仕事』ではないと思います」

 漫画アシスタントはいう。

「Webtoon業界では、漫画家以外にもイラストレーターなどいわゆる『漫画を描けない人』も参入しています。そのため、制作会社では作品ごとにスタッフを募集するにあたって、編集者がクリエイターに声をかけてコンペを開催したりしています。高倍率の選考に勝ち残った人が制作スタッフになるという仕組みで、そういう意味では数十年前に比べれば門戸は大きく広がったといえます。

 Webtoonのアシスタントの世界は、ものすごい格差社会で、自分が携わっている作品が売れるかどうかが大きいのは、紙でもウェブでも同じです。一方、紙媒体の漫画と違い、縦読み漫画は完全役割分業制での制作が主流です。紙媒体の漫画では作者がネームからコマ割りまで大まかなアウトラインをつくりますが、縦読み漫画では漫画家とアシスタントの境界があいまいで、原作者以外の担当をどこからアシスタントと名付ければいいのか難しいところです。というのも、Webtoon漫画は『原作(脚本)』『ネーム』『下書き・線画(ペン入れ含む)』『背景』『着彩(色塗り)』『仕上げ』とそれぞれ分業制になっているためです。

 紙媒体の漫画家や少数のアシスタントがこなしていた仕事を細分化、分割することで多くの仕事が生まれています。稼げるかどうかは、コンテンツそのものの人気の影響もありますが、どの部分を担当するかにもよります。例えば、制作会社のオリジナル作品であれば『原作』『線画』『ネーム』の担当で原稿料プラス印税が入ります。そのほかの担当の収入に比べると2倍くらいの差があります。特に『線画』は人手不足な印象があります」