人工知能(AI)の急速な進歩は、私たちの働き方の未来について、熱い議論を巻き起こしている。テクノロジーを頼もしい味方と見る声がある一方で、機械やアルゴリズムが人間の仕事を奪ってしまうのではないか、という不安の声も根強い。そんな中、マイクロソフトの共同創業者であり、テクノロジー界の重鎮であるビル・ゲイツ氏が、少々大胆とも言える予測を披露した。彼によれば、AIが社会に浸透しきったとしても、安泰と言える職業分野はたった3つしかないというのだ。

 ゲイツ氏が「AI時代でも仕事が保証される」と考えるのは、「プログラマー」「エネルギー専門家」「生物学者」の3分野だ。自動化が進む世界で、なぜこれらの仕事は特別だと考えられるのだろうか。

ビル・ゲイツが語る「AI時代を生き残る」3つの仕事とは
(画像=© European Union, 2025, CC 表示 4.0, リンクによる,『TOCANA』より 引用)

AIを操り、社会を動かし、未来を創る専門家たち

 まず一つ目は「プログラマー」だ。AI自身がコードを書けるようになっているのに、なぜプログラマーが必要なのか? ここにはちょっとした皮肉がある。ゲイツ氏によれば、AIはまだ間違いを犯すし、不完全な解決策しか出せないことも多い。学習データに起因する偏ったパターンを繰り返すこともある。こうしたAIの欠陥を修正し、複雑なシステムを調整し、機械が意図通りに動くようにするのは、結局のところ人間のプログラマーなのだ。

 さらに、より高度なAIシステムの需要が高まるにつれて、既存技術の監視だけでなく、新しいツールを開発する専門家も必要になる。いわば、自分たちを代替するかもしれないAIを自ら作り、改良し続けるのがプログラマーであり、この循環が彼らの仕事を(少なくとも今のところは)安泰にしているというわけだ。

 二つ目は「エネルギー分野の専門家」である。再生可能エネルギー、原子力、化石燃料などを含むエネルギーセクターは、現代社会を支える根幹だ。ゲイツ氏はこの分野の複雑さは、現在のAIの能力を超えていると指摘する。送電網の計画、需要と供給のリアルタイムでの調整、新しい技術への戦略的な投資判断など、高度な専門知識と経験を持つ人間が必要不可欠なのだ。

 エンジニアや研究者、技術者は、重要なインフラを運用するだけでなく、クリーンエネルギーへの移行やエネルギー効率の向上といった課題に取り組むために、常に革新を続けている。AIはデータ分析やプロセスの最適化で役立つかもしれないが、都市全体のエネルギー供給に影響を与えるような決断を下す際の、状況に応じた判断力や適応力までは代替できない。

 そして三つ目が「生物学者」(生物科学や医学分野の研究者を含む)だ。この分野では、AIはすでに大量のデータ分析を加速させ、遺伝子研究のパターンを特定し、病気の診断を助けるなど、貴重なツールとなっている。

 しかし、ゲイツ氏はAIには限界があると強調する。それは、科学的な大発見につながるような「創造性」の欠如だ。生物学者はアルゴリズム的な論理を超えて、仮説を立て、実験をデザインし、結果を解釈する。例えば新薬開発を考えてみよう。AIは既存データに基づいて候補となる分子を提案できるかもしれないが、生物学的な文脈、潜在的な副作用、そして満たされていない患者のニーズを理解するのは研究者自身だ。常識にとらわれずに考える能力や直感といった人間ならではの強みが、生物学者を替えのきかない存在にしているのである。