ところで、中国は核兵器開発では米国やロシアに後れを取っている、という認識を有している。中国は1964年~96年の間、ロプノールで45回の核兵器実験を行ったが、モスクワは冷戦時代、700回以上、米国は1000回以上の核兵器実験を実施してきた。核実験回数では中国は米ロ両国と比較して圧倒的に少ない。核兵器の性能向上を実現する目的にとっては、それは大きなマイナスだ。
それだけではない。中国共産党政権派の環球時報の編集長・胡錫進氏は2020年7月28日、「中国は比較的短期間に核弾頭の数を1000基水準に増やすことが必要だ」と話し、「米国との戦争に勝利するためには1000個の核弾頭が必要だ」という趣旨の論評を掲載し、大きな反響を呼んだ。すなわち、中国は核弾頭の数も米ロに比較して少ないという認識があるはずだ。それが中国の核実験の再開情報の根拠となっているわけだ。
もちろん、核実験の再開への誘惑は中国だけではない。米国を含む核保有国は「1980年代、90年代の核兵器が依然機能するかを知りたがっている」(軍事専門家)からだ。実験を繰り返し、問題がないと確認されない限り、その兵器は実戦では使用できない。米国やロシアは過去、臨界前核実験を実施したが、核兵器の安全性などをチェックするためには核実験以上の手段はないからだ。
北朝鮮を除く8カ国の核保有国はどの国も「核実験のモラトリアムを最初に破った国」という汚名を避けたいと思っている。逆にいえば、核保有国の一国でも核実験を再開すれば、他の核兵器保有国も次々と雪崩を打って核実験を再開することが予想されるのだ(「CTBTOは存続できるか」2023年11月13日参考)。
北京だけでなく、ワシントンやモスクワも近年、核実験場を大規模に拡張している。アメリカのネバダ州の実験場、北極にあるロシアの極地ノヴァヤ・ゼムリャ上空で撮影された衛星画像によってそれは証明されている(ノヴァヤ・ゼムリャでの核実験は、1955年9月21日から90年10月24日までの間に130回行われた)。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年1月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。
提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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