地方から首都圏に来た人のなかには『これは何?』と驚く人も少なくないといわれる、イオン系のミニスーパー「まいばすけっと」。コンビニエンスストアほどの広さのスーパーで、コンビニより数割ほど価格が低い商品が“ギュッと詰まった”店舗だが、現在、年間100店のペースで怒涛の出店攻勢をかけている。スーパーのように客の来店頻度向上のために季節ごとに目玉商品を並べたり、頻繁に陳列を変えてバリエーションの豊かさを演出したり、地域性のある商品を陳列したりといったことには力を入れず、どの店舗でも画一的な品揃えで、とにかく安さを追求するなど、ユニークな店舗運営も注目されている。売上のうちイオンのプライベートブランド(PB)「トップバリュ」商品が占める割合は20%に上るのも特徴だ。なぜ「まいばすけっと」は出店攻勢をかけているのか。そして、コンビニやスーパーを脅かす存在になるのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。
イオンの子会社が運営する「まいばすけっと」は首都圏を中心に約1200店舗(2024年10月現在)を展開しており、2022年には1000店舗、23年には1100店舗を達成していることから年間100店舗のペースで出店を行っている。そのスピードは加速する見込みであり、イオンの吉田昭夫社長は昨年10月の25年2月期第2四半期決算説明会で「いち早く倍にする」と宣言している。
運営会社の業績も急拡大している。直近5年をみてみると、2024年2月期の売上高は19年2月期の1.7倍の2578億円、営業利益は約4倍の74億円と大きく伸びている。
極めてローコストで運営
「まいばすけっと」が出店攻勢をかけている理由について、流通アナリストの中井彰人氏はいう。
「『まいばすけっと』は機能的にはコンビニに非常に近いものの、業態としてはコンビニではなくスーパーです。コンビニが閉店した跡地にもどんどん出店しています。一般的なスーパーと異なる点は、スーパーは生鮮食品売り場の裏側のバックヤードに食品の加工場所を設けて、そこで切ったりパック詰めしたりして店頭に並べていますが、『まいばすけっと』にはそれがありません。この点はコンビニと同じです。生鮮食品は集中センターで処理した後、店舗に届けて陳列するだけの形態にすることで、店舗内で加工をする人を不要にしました。徹底してコストダウンしたスーパーとして成立するようになっています。ITで管理された密集した店舗網で短時間での配送によって鮮度を落とさないことに成功したということです。
価格についていえば、コンビニどころか一般のスーパーやディスカウントストアなどよりも安くなりつつあります。スーパーでもすごい勢いで値上がりしている一方、イオンのトップバリュはそもそもナショナルブランドの商品より安い上に、価格据え置きの路線を取っているため、相対的に『まいばすけっと』の価格の低さが際立つようになっています。以前からローコスト運営のためにさまざまな実験的な取り組みをしてきたわけですが、スーパーなのに数人の店員で運営して、会計もセルフレジなので極めてローコストで運営できています。それによって商品の価格を上げなくても運営できる体制を確立し、かつ店舗数が増えて規模が大きくなったことで『規模の経済』が働いて、チェーン全体としてのコスト率が低いスーパーとして成立し始めています」
「まいばすけっと」好調の背景には時代も味方しているという。
「スーパーは集客のために頻繁に陳列棚に変化を加えていますが、『まいばすけっと』は効率化を優先させて品揃えを絞り込んでいます。以前であれば消費者は店の品揃えの豊富さをかなり重視していましたが、長きにわたり実質賃金が減少を続けて家計が苦しくなった結果、とにかく安いものを追い求める人の割合が増えたというのも、『まいばすけっと』にとっては追い風です」(中井氏)