その原因は「言論アリーナ」で諸葛さんも指摘したように、安全審査や定期検査を電力会社(特に東京電力)に丸投げして、自主規制させていたからだ。審査の大部分は電力会社がやり、かつての原子力安全委員会は1ヶ月ぐらいの審査で合格にしたという。
これを是正するために原子力規制委員会は、NRCをモデルにして所管官庁の命令を受けない三条委員会(国家行政組織法第3条に定める各省と同格の委員会)として独立性を強めたが、これが逆効果になった。
事務局の規制庁はいろいろな官庁からの出向者の寄り合い所帯になり、意思決定に時間がかかるようになった。安全審査に膨大な書類が要求され、規制基準にも整合性がなく、特重のように事後的に規制が強化される。経済産業省との人事交流もなくなったので、大事な情報が入らない。
このように規制委員会が機能しない本質的な原因は、今まで電力会社に蓄積された専門知識でやってきた審査を、役所が直接やる方式に変えたことだ。それが機能するには、規制委員会を独立の専門家集団にし、すべての知識を役所に統合しなければならない。
役所と電力会社の関係は、日本の大企業の親会社と下請けの関係と同じで、役所が細かいことまで介入しなくてもいいので、平時には効率がいい。おかげで日本の公務員の数は、人口の3.7%と先進国で最小だ。
審査と運転を分離すべきだこういう長期的関係は、役所と業者の利害が一致していないと機能しないので、業者の利益に反する規制ができない。原発事故のような「有事」には両者の利害が大きく食い違い、にっちもさっちも行かなくなる。
この点で行政と業者が対立関係にある欧米の公務員とはまったく違う。どちらがすぐれているかは一概にはいえないが、日本の原子力規制委員会のように、スタッフも審査能力も足りないのに、すべてやろうとするのは最悪である。
三条委員会は日本では機能しないというのが行政学の定説だが、原子力規制委員会はそれを見事に証明した。普通の国では安全審査に時間がかかることは大きな問題ではないが、日本ではそれが原発を止める結果になるため、実害は非常に大きい。