しかし今回の新たな研究では、山脈内部の方が水素が発生しやすい可能性があることが明らかになったのです。
その理由は、山脈内部の環境の方が比較的冷たく、蛇紋岩化が最も効率よく進む温度帯(200〜350℃)に長くとどまるためだと指摘されています。
さらに山脈には、大規模な断層が多く存在し、水の供給が活発であることも、水素生成の促進要因になっています。
実際に研究チームのシミュレーションでは、山脈内部では大陸プレートが引き裂かれる環境に比べて、年間の水素生成量が最大で20倍にもなる可能性があることが推定されたのです。
この発見は、山脈がこれまで見落とされていた「天然の水素貯蔵庫」になり得ることを示唆しており、エネルギー問題の新たな解決策として期待されています。
ピレネー山脈の水素量は「50万人分のエネルギー需要」を満たす?
今回の研究は、クリーンエネルギーの未来に向けた新たな一歩です。
もし山脈内部の水素資源を効率よく採掘できれば、
・合成水素の生産にかかる莫大なエネルギーコストを削減できる
・温室効果ガスを排出せずに持続可能なエネルギー供給が可能になる
・これまで手つかずだった「地球内部の水素資源」を活用できる
といった利点が期待されます。
すでに研究チームは、ヨーロッパのアルプス山脈やピレネー山脈、バルカン山脈の内部で大量の水素ガスが生成されている可能性を特定しており、採掘作業を実施する計画が進行中です。
研究者によると、ピレネー山脈東部の蛇紋岩化を分析した結果、そこに蓄えられている水素ガスの量は年間50万人分のエネルギー需要を満たす可能性があるといいます。

ただし一方で、
・水素の正確な埋蔵量
・実際に採掘可能な技術の開発
・環境への影響
など、多くの課題も残されています。
しかしこうした点がクリアになり、実際に山の中から天然の水素ガスを掘り当てることができれば、昨今のエネルギー問題を解決する転換点となるかもしれません。