これにより、電子が上下や奥行き方向に動く様子まで漏らさず捉えられるようになったのです。
すると、理論上「あるかもしれない」とされていた“線”の付近で、電子がまるで竜巻のように渦を巻いていることが初めて明確に示されたのです。これが「量子竜巻(オービタル・ボルテックス)」と呼ばれるものです。
さらに、この渦の位置や形状は物質の結晶構造によって左右されることもわかりました。
加えて、この渦状の電子の性質がスピンと呼ばれる別の電子特性にも影響を及ぼす可能性があるため、将来的には省エネルギー型の電子機器や、新しい情報処理技術への応用が見込まれます。
これまでは、物質内部に“線”のような特殊な領域があるという程度の理解しかありませんでした。
しかし今回は、電子の“渦”を三次元的に視覚化することに成功したため、二次元データだけでは想像するしかなかった立体像――「ここにぐるぐる渦が巻いている」という様子――をはっきり確認できたのです。
量子竜巻を応用した技術開発

今回の研究で発見された「量子竜巻(オービタル・ボルテックス)」は、単に「珍しい渦が見つかった」という話ではありません。
この現象は、電子が持つ軌道角運動量(OAM)が、物質内部でどのように回転しているかを三次元で正確に捉えられたことに大きな意義があります。
これにより、電子がどのようにエネルギーを持ち、どの方向に動くかという「運動量空間」という、電子の動きを表す立体的な地図上で、特定の“線”(ノーダルライン)やその周囲の波動構造を、これまでになかった精度で理解できるようになりました。
この新たな知見は、電子が持つ軌道角運動量(OAM)が、電子のスピンなど他の量子性質と強く連動して動く可能性を示しています。
例えば、電子の軌道が持つ回転の向きや強度が、スピンの配列やその変化と結びつくことで、従来の電子デバイスでは実現できなかった多層的な量子状態を作り出すことが期待されます。