東京・中野区の「中野サンプラザ」の跡地の再開発の工事費が、当初の想定を900億円以上も上回る見込みとなっていた問題で、11日、中野区は事業予定者に基本協定の解除を申し入れる方針であることを発表。再開発計画が撤回され白紙に戻されるかたちになった。野村不動産を代表事業者とする事業者グループが選定された2021年1月時点で事業費は約1810億円だったが、その後、複数回にわたり事業費は上積みされ、昨年9月には野村不動産は人件費や原料費の高騰を理由として900億円以上増えると中野区に伝達。加えて24年度中の着工は難しいとして施行認可申請を取り下げ、当初の事業計画を変更して高層棟を増やす案などを提案。これが区議会の反発を招いたとされることから、野村不動産に対して批判的な声も広まっているが、専門家は「やむを得ないとしか言いようがない」と指摘する。野村不動産ら大手が開発から降り、事業費が高騰した今、中野区が新たな事業者を確保するのは難しくなっているが、竣工から50年以上が経過し老朽化する中野サンプラザをどうするのかという問題も残る。跡地に開発される施設は2029年の開業予定だったが、これから新たに事業者を募り開発計画を練り直すとなれば、開業がいつ頃になるのか。また、もし事業者を確保できない場合、何か現実的な対策案というのはあるのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。
中野区は21年、中野区役所および中野サンプラザを含むJR中野駅新北口駅前エリアの拠点施設を整備する「NAKANOサンプラザシティ計画」を発表。収容人員最大7000人の大ホールやホテルを含む棟と、オフィスやマンション、商業施設を含む地上61階、高さ約260メートルの高層ビルで構成される施設が建設される予定だった。中野区は当初、この再開発の事業費を1810億円と見込んでいたが、野村不動産は複数回にわたり見積もりの増額を提示。工事を請け負う清水建設から工事費の大幅な増額を提示されたためだった。
野村不動産の判断はやむを得ない
不動産事業のコンサルティングを手掛けるオラガ総研代表取締役の牧野知弘氏はいう。
「これまでは建設会社はいったん事業主との間で工事の請負契約を締結すると、その後の工事費用の値上がり分は自腹で吸収してなんとかするというのが一般的でしたが、近年の建設費の上昇幅は極めて大きく、それが難しくなっています。本件について詳細はわからないため、あくまで推察ですが、おそらく清水建設は請負契約締結前に複数回にわたり見積もりを上方修正して出し直し、事業主側とのやりとりを重ねるなかで、今後も建築費が著しく上昇するリスクを踏まえて、請負契約は締結できないと判断したのかもしれません。
ちなみに麻布台ヒルズのB棟の建設では、請負契約を締結した建設会社が追加工事の発生による工期の遅延で追加費用が発生し、その費用を発注者から支払ってもらうことができずに、さらに違約金も発生した影響で多額の損失を計上したと伝えられています。業界では『請け負け』と呼ばれる現象です。
また、発注者とディベロッパーの間で、なんらかの理由で法的拘束力のない基本協定が解除にいたるというケースは、『よくあること』ではないものの『しばしば起こること』ではあります」
野村不動産の責任を問う声もある。
「ディベロッパーが開発事業全体をコントロールできないほど建設費の急騰が続いていることが背景にあります。責任というよりも、やむを得ないとしか言いようがありません」(牧野氏)