涙の匂いで活性化する嗅覚受容体を発見!

チームは過去に見つかっている62種類のヒト嗅覚受容体(匂いを検出するタンパク質)に、女性の涙と生理食塩水をさらしてみました。

その結果、4種類のヒト嗅覚受容体が涙に含まれる化学物質に特異的に反応して、活性化することが新発見されたのです。

これらは生理食塩水に対しては無反応でした。

ヒト嗅覚受容体「OR11H6」と「OR2AG2」が涙(青)によって活性化。生理食塩水(赤)では特に反応がなかった
ヒト嗅覚受容体「OR11H6」と「OR2AG2」が涙(青)によって活性化。生理食塩水(赤)では特に反応がなかった / Credit: Shani Agron et al., PLOS Biology(2023)

このことは女性の涙に攻撃性を鎮める化学物質が含まれていること、およびヒトの嗅覚の側にもその匂いを受け取る神経システムがあることを証明する革新的な成果です。

涙そのものにはっきりとした匂いはないものの、私たちは無意識的に涙の匂いを感じとっているようです。

以上の結果から、女性の涙には男性の攻撃性を鎮める作用があると結論されました。

一方でチームは本研究について、女性の涙による男性への作用のみを調べた点で限界があり、今後は性別に関係なく涙が相手の攻撃性を緩和させる機能があるかどうかを調べていきたいと話しています。

それに加えて、攻撃性を低下させる因子となった涙の中の化学物質も特定していく予定です。

その有効成分が明らかにされ、人工的に製造できるようになれば、”乙女の涙”みたいな怒り鎮静スプレーが開発できるかもしれません。

参考文献

Exposure to tears activates human smell receptors and alters aggression-related circuits in the brain

Human tears contain substance that eases aggression, says study

Sniffing women’s tears reduces aggression in men and alters brain activity, groundbreaking study finds

元論文

A chemical signal in human female tears lowers aggression in males

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

海沼 賢: 以前はKAIN名義で記事投稿をしていましたが、現在はナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。