朝日新聞の同年2月11日の朝刊第1面には「車貿易や為替 焦点」という大きな見出しの記事が載った。本文の冒頭は以下のようだった。

「(日米首脳会談で)トランプ氏は自動車貿易を重要課題とする構えで、二国間の貿易協定や為替政策に言及する可能性もある。通商・金融分野をめぐり、どのようなやりとりが交わされるかが焦点となりそうだ」

その前日の2月10日夕刊は、もっと明確だった。間違った予測を見出しにした記事だった。

「自動車、重要議題に」

こんな見出しの記事の本文は冒頭で以下のように述べていた。

「トランプ米大統領が10日の安倍晋三首相との日米首脳会談で、自動車貿易をめぐる協議を重要議題に位置づけていることがわかった」

しかし現実の日米首脳会談では自動車問題も為替問題も出なかったのだ。この事実は朝日新聞も首脳会談直後の2月12日付朝刊の記事ではっきりと認めていた。

「トランプ氏が問題視していた日本の自動車貿易や為替政策も取り上げられなかった」

朝日新聞のトランプ報道にはこんな前歴もあるのだ。これはやはり誤報と呼ぶしかないだろう。その同じ誤りを8年後にまた繰り返しているのだ。誤りというよりも意図的なゆがめと見た方が妥当かもしれない。

アメリカのトランプ支持層はトランプ氏に対してとにかく憎しみや嫌悪の感情に流され、客観的な政治判断のできない人たちの風潮を「反トランプ錯乱症」(TDS)と呼んでいる。トランプ氏の言動や政策はとにかく悪いのだと決めつけるような朝日新聞の論調もそんな錯乱症といえるのかもしれない。

古森 義久(Komori Yoshihisa) 1963年、慶應義塾大学卒業後、毎日新聞入社。1972年から南ベトナムのサイゴン特派員。1975年、サイゴン支局長。1976年、ワシントン特派員。1987年、毎日新聞を退社し、産経新聞に入社。ロンドン支局長、ワシントン支局長、中国総局長、ワシントン駐在編集特別委員兼論説委員などを歴任。現在、JFSS顧問。産経新聞ワシントン駐在客員特派員。麗澤大学特別教授。著書に『新型コロナウイルスが世界を滅ぼす』『米中激突と日本の針路』ほか多数。