大人なのにミニカーを買ってしまう
当サイトをご覧の方は、皆さん所謂「クルマ好き」に違いないが敢えて問う。子供どころか孫が生まれるような歳になって、おおっぴらに「俺はクルマが好きだ」と世間様に胸を張るのは恥ずかしくないか? そんなことを何十年も前に五木寛之が書いていた。
その頃、筆者はまだ二十歳そこそこの青二才で、読んだ途端に反感を覚えたが、自分が還暦を過ぎた今なら、彼が言わんとしたことはよくわかる。とは言え「好きなのだから仕方ないじゃないですか」という静かな開き直りとともに生きているのが現実である。
身辺を見渡せば、クルマどころか、プラモデルやミニカーといった趣味に嬉々として取り組む知己も少なくないし、何を隠そう、そもそも自分自身だって同じ穴のムジナなのだ。
ミニカーで夢想した子供時代
大人になってミニカーを買う人がいるとすれば、一つには幼少期に満たされなかった欲求を埋める行為と言えるかもしれない。“子供の時に買ってもらえなかったから”というのはよく聞く話だが、筆者がここで言いたいのは違う。
例えばダイキャスト(亜鉛合金製)ミニカー全盛期の1960年代に於いて、ポルシェ911を題材としたミニカーは数多あったけれど、あの象徴的なフックス(ポルシェアロイ)ホイールを正確に再現できていた1/43スケール・モデルが存在しただろうか? 筆者が知る限りは存在しない。さらに例えばスレート・グレーの911のミニカーは存在したか? 答えはノーだ。

現代の目で見ると、あの時代のミニカーには、玩具としてのまとまりの良さや抽象的な表現の味わいはあるが、象徴的な意匠やボディ色すら正確には再現されていなかったものが少なくない。子供達は想像力でそれを補いながら愛でていたのであり、彼らは夢想の中で、理想の911をイメージしていたのである。
21世紀の高級ミニカーとは
その点、現代のミニカーは全てを備えている。仔細なディテールや正確で美しい塗装、無数のバリエーション。それはもはや玩具ではなく、鑑賞して楽しむ嗜好品の世界だ。存在意義自体が昇華され、購買層も「子供」から「大人」へとスライドしていった。かつて想像力を駆使して理想をイメージしていた少年たちは、求めていたものを、今こそ手にすることができるというわけだ。
こうなってくると、できるだけ高品質なものを求めるのは好事家の習性である。いかに塗装が美しいか、いかにディテールが正確かつ清潔に再現されているか……。チェックポイントは枚挙にいとまがない。
しかし待て。真実を言えば、ここで我々が本当に求めているのは、恐らくかつて自らの想像力で生み出したイマジネーションの中に居た理想のクルマなのではないか。あの「理想」に、なるべく近いものを求めているのではないだろうか?
憧憬が生んだ理想の911
そしてこの図式、実物のクルマの世界でも、似通った事象を発見することができる。先ほどポルシェ911を例にとったが、「シンガー・ビハイクル・デザイン」が、ポルシェ964をベースに「リ・イマジン(reimagine)」して作り出してきた「クラシックスタディ」、「DLS」そして「ターボスタディ」は、まさに彼らのイマジネーションが生み出した理想形に他ならない。

憧憬と想像力が無ければ、歴史的かつ象徴的な意匠や色彩を盛り込みつつ、それぞれに相応しいパフォーマンスを与えた最新型を生み出すことは不可能である。
実物とミニカーの違いは遠い隔たりにも感じられるが、「理想のクルマ」を求める人間の初期衝動という観点から言えば、意外に近いと言えなくもない。
東京・青山「メイクアップ」の高品質
話を高級嗜好品たる現代のミニカーに戻すと、2025年現在、1/18、1/43、1/64の各スケール(縮尺)で、最も作り込まれたディテールと贅を尽くした塗装工程を奢られ、結果として最高品質を実現しているミニカー・メーカーと言えば、東京・青山に本社ショールームを構える老舗「株式会社メイクアップ」の名を一番にあげなくてはならないだろう。かつて同社・植本秀行社長は「精密感という言葉がありますが、精密感は精密に作らなければ得られません」と語った。

同社の製品コンセプトは一事が万事、この言葉に集約されており、理想を追うあまり、その部品点数と工程はコストを度外視して増える傾向にある。例えばフックス風ホイール1つとっても、リムは真円度を重視したアルミ挽物であり、真鍮切削原型からホワイトメタルに置き換えられた内部パターン部分とは別部品だ。もちろんブレーキディスクもキャリパーも個々の部品。
灯火類の構造も凄まじく、1/43スケールなら僅か5ミリほどのライトベゼルはメッキ処理が施された金属部品で、中のバルブやカットが再現されたレンズを組みわせて、手を抜くことなく作り込まれている。こうした凝った作りは当然価格にも跳ね返ってくるが、仕上がりを見ればそれだけの価値は確かにある。
それはまさに理想を追い続ける「ものづくり」と言えるだろう。








「メイクアップ」の「シンガー」


シンガーのミニカーについては、ここに来て大きな変化が訪れているようだ。シンガーとメイクアップ、この両社の間に今までに無かった新しい関係性が生まれつつあるというのだ。
共に限りなく「理想」を希求する2社。このコンビネーションには純粋な夢が感じられる。新たな展開が発表される日を楽しみに待ちたいと思う。





【問い合わせ】
メイクアップ公式サイト
メイクアップのシンガーDLS
文・山田剛久/提供元・CARSMEET WEB
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