東京科学大学病院(旧・東京医科歯科大学病院)が総合医療情報システムを更新し、1月1日から新システムを本格稼働させたが、その直後からシステム障害に伴い外来診療・入院手続き・初診の対応・会計処理で遅延が生じるなど、広い範囲で業務に影響が発生。病院はBusiness Journalの取材に対し「会計処理に時間を要しており、後払いをお願いしています。(原因については)調査中です。原因は一つではない」と説明する。今回の更新に際しては開発担当のベンダーが従来の富士通Japanから日本IBMに切り替えられた点や、日本IBMへの発注金額が約66億円に上るとみられる(ジェトロ<日本貿易振興機構>「政府公共調達データベース」より)点も注目されている。専門家は「一般的に担当ベンダーが変わると仕様書に書いていない内容などがあったりして開発の難易度が上がる。電子カルテシステムの画面や操作手順も変わるため、業務の混乱が起こる可能性も高まる」と指摘する。背景を追ってみたい。
2023年10月にERセンター・手術室・ICUなどの機能を強化するC棟を本格稼働させ、東京医科歯科大学と東京工業大学の大学統合に伴い昨年10月に東京医科歯科大学病院から名称を変更した東京科学大学病院。約800の病床数を擁し、診療科・部・センター等は40以上に上り、東京都および周辺地域の医療を担う重要な存在でもある日本有数の総合病院だ。
近年では一定規模以上の医療機関では、電子カルテや患者の各種情報・文書、診療・入院・会計処理に関する業務などを統合管理・運用するシステムの導入が進んでいるが、東京科学大学病院も以前から最先端の医療情報システムの開発に取り組んできた。そんな同病院の総合医療情報システムの更新で、大規模な障害が起きた。このようにシステム更新に伴い広い範囲で業務に影響が出る場合、どのような原因であることが多いのか。データアナリストで鶴見教育工学研究所の田中健太氏はいう。
「あくまで一般論として、主に3つ考えられます。まず、単純にシステムのハードウェア障害が起こるパターン。2つ目が、別のベンダーに変わるケースでは、データの移行漏れや仕様書に書いていない事柄の存在が判明するというパターンで、患者への過去の診療記録の一部が参照できなくなるというようなケースです。3つ目がインターフェースの変更です。各社の電子カルテシステムは当然ながら画面や操作手順が異なっており、医師や事務担当者が操作が分からなくなって業務がストップしたり、画面上で保険種類の選択をする場所が変わってしまったために入力し忘れてしまい処理ができなくなるといった混乱が生じたりします」
病院のシステムの難しさ
前述のとおり、今回の更新に際しては開発担当のベンダーが従来の富士通Japanから日本IBMに切り替えられた。日本IBMは自社製品としてIBM CIS+という電子カルテシステムを提供しており、医療機関向けシステム開発で豊富な実績を持っている。大規模なシステムの担当ベンダーを切り替える場合、どのような理由・背景が考えられるのか。
「同病院は国立大学の機関であり、国の機関は例外を除いて発注の際には競争入札にかける必要があります。今回の東京科学大学病院の件について、ベンダーが切り替えられた理由は分かりませんが、既存ベンダーはシステムの内容を詳細まで把握しているゆえに見積金額が高くなりがちで、競合他社が受注目的で大幅に低い見積金額を提示したことで、そちらのほうが選ばれるというケースはしばしばあります」(田中氏)
病院のシステムというのは、開発において特有の難しさというのは、あるものなのか。
「一般企業と比べて病院の業務は特殊であり、また病院によって大きく異なるため、仮にパッケージソフトを使うにしてもカスタマイズが多く発生します。また、業務をシステムに合わせて変更するというのもハードルが高いでしょう。そしてカスタマイズが多くなるほど仕様漏れも増えますし、結果的にトラブルが増えやすい傾向にあるかもしれません」(田中氏)