VWならではの質実剛健と、適度な上質感がバランス
9世代目に移行したVWパサートは、ある意味、新しい価値観を提唱する意欲作である。SUV全盛のマーケットで、あえてワゴンがもたらす豊かさを追求したからだ。
パサートは1973年のデビュー以来、50年以上の歴史を誇るロングセラー。ちなみにゴルフの誕生は1974年だから1年先輩になる。累計販売台数は3400万台を超え、すでにビートルの記録を抜き去った。パサートは、盤石な支持基盤を持つVWの主力モデルである。とはいえ、最近はその存在感が薄れていた。理由は世界的にセダンの需要が落ち込んだからだ。かつてクルマの基本形はセダンだった。だが現在は、SUVがその座を受け持つ。パサートはその影響をストレートに受けた。

新型はボディタイプをワゴンに絞り込んでいる。しかもボディサイズを従来比でひと回り拡大。ワゴンならではのスペース性を徹底的に高めると同時に、自然な走り味を磨くことで独自の魅力を提示する。歴代パサートは、VWならではの質実剛健と、ほのかな上質のバランスが魅力の源泉。最新モデルは、従来からの価値はそのままに「豊かなツーリング性能」を武器に、SUVに斬り込む攻めの1台である。
試乗モデルはeTSIエレガンス。1.5リッターターボ(150ps/250Nm)とモーターを組み合わせた48VマイルドHV仕様だ。スタイリングは伸びやか。全長が従来より130mm伸びた4915×1850×1500mmのサイズは上級のメルセデスEクラスワゴン(4960×1880×1470mm)と同等。圧倒的な存在感を感じる。しかもCd値0.25を誇るだけに細部まで造形は洗練されている。驚いたのは豊かなパッケージングだ。室内はまさに広々。中でも後席のゆとりは圧倒的で、足を組んでくつろげる。


ワゴンの特徴が最も色濃く発揮されるラゲッジスペースはといえば、これはもう圧倒的に広い。後席使用時で690リッター、後席シートバックを倒すと1920リッターもの広大なスペースが出現する。アクティブなアウトドア・アクティビティを楽しむユーザーの最強のパートナーとなるに違いない。これだけ広いフリースペースは、眺めているだけでも自然と夢がふくらむ。
うれしい誤算は、想像以上に取り回し性に優れる点だった。最小回転半径は5.5m。FFレイアウトながらステアリングはよく切れ、車両感覚が把握しやすいこともあり、感覚的にはゴルフと同等の気楽さでドライブできた。運転のしやすさは、SUVのティグアンを確実に上回る。


ハンドリングもいい。低い車高がもたらすメリットが確実に生きてドライバースカーとして一級品の完成度を誇る。もちろん乗り心地も優秀。プラットフォームの新世代化とアダプティブシャシーコントロールの進化が確かに感じられた。パフォーマンスは格別速くはないが、必要にして十分な印象だった。
パサートは、そのデザイン、スペース性、そして乗り味で、オーナーを刺激する。SUV以上に落ち着いた雰囲気をたたえ、「旅に出たくなるクルマ」という表現がしっくりくる。乗る人の確かな選択眼を感じさせる逸材である。




文・横田宏近/提供元・CAR and DRIVER
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