「お金持ちが着けている腕時計といえば?」と聞かれたらほとんどの人が「ロレックス」と答えるだろう。それほどロレックスは高級時計として広く認知されている。しかし、ロレックスと答えた人は本当のお金持ちではない。なぜなら、本当のお金持ちにはロレックスより魅力的なブランドが存在するからだ。

本当のお金持ちが買う時計はロレックスではない

ロレックスはもちろんバリバリの高級時計だ。最も廉価なスタンダードモデル「オイスター パーペチュアル」のレディスモデルさえ定価で50万円もするブランドが庶民派であるはずがない。事実、ロレックスを身に着けていれば、どんな高級ホテルやレストランに行こうが場違いな思いをすることはないだろう。抜群の知名度ゆえに誰からも一目置かれるだろうし、モノのクオリティも高い満足感を与えてくれるはずだ。

ところがこのロレックス、代々続く名家、年収が億を超える経営者やプロアスリートなど、本当の金持ちにとってはただの実用アイテムにしかならない。彼らにとってロレックスはあくまで普段使い用、本気で勝負するときは別のブランドをチョイスする。

そんな雲上人たちのお眼鏡にかなうブランドの代表格が世界4大高級ブランド。時計界をリードし続けるスイスの「パテック フィリップ」、「ヴァシュロン・コンスタンタン」、「オーデマピゲ」、そしてドイツの「A.ランゲ&ゾーネ」だ。

時計界の中でロレックスは新参者

高級時計におけるロレックスのポジショニングはどんなものなのか。ロレックスの創業は1905年で20世紀に入ってからのこと。一方、パテック・フィリップは1839年、ヴァシュロン・コンスタンタンは1755年、オーデマピゲは1875年、A.ランゲ&ゾーネは1845年創業だ。この数字だけみるとあまり違わないと思われるかもしれないが、時代背景に起因するブランドの成り立ちが大違いなのだ。

ロレックスは20世紀の大量生産時代にあって、工業品として時計を生産するブランドとしてスタートしたが、4大ブランドの創業は産業革命があったとは言え、まだ封建制度が強かった時代。職人が丹精込めて時計をハンドメイドし、王侯貴族をはじめとする“やんごとなき雲上人”に献上するための工房がはじまりだった。

そもそも始まりから一般人用のロレックスと雲上人用の4大ブランドでは向いている方向がまったく別なのだ。4大ブランドから見たらロレックスはいわば成り上がりであり、ステータスを求める現代の雲上人がロレックスより4大ブランドに興味を持つのも当然のことだろう。

4大ブランドは本当のお金持ちだけを相手にしている

お金持ちしか相手にしていない4大ブランドは当然ながら価格が高い。もっともステータスが高いと言われるパテック・フィリップの入門機「アクアノート」でも定価は最低でも200万円前後。貴金属は使っておらず、素材はステンレススティール、しかもストラップはラバーにもかかわらずだ。ゴムベルトに200万円以上ポンっとだせる人しか最初から相手にしていないのだ。

これをより身近な存在のクルマに例えるならば、ロレックスは「メルセデス・ベンツ」、4大ブランドは「ロールス・ロイス」みたいなものだ。ベンツは高級ブランドとして世間では圧倒的な認知を誇るが、ちょっと頑張れば手に届くモデルも用意している。しかしロールス・ロイスとなれば話は別、最廉価モデルでも新車は3,000万円台スタートで、雲上人のほうしか向いていないのだ。

4大ブランドを手に入れたいなら中古が現実的だが……

本当のお金持ちでなければ4大ブランドを買えないのか。もちろんそんなことはない。しかし、その価格を考えると、現実的にはユーズドから選ぶことになるだろう。そこで注意したいのは維持費だ。車検で100万超えは珍しくないと言われるほど、ロールス・ロイスの維持費は高い。時計はクルマと違うと思われるかもしれないが、4大ブランドともなるとメンテナンス代も別格だ。もっともシンプルなモデルでも、正規店なら3年に一度10万円近い出費を覚悟したほうがいい。

めったに出てこないが、中古で安いモデルが見つかったからといって、クロノグラフなどの複雑なモデルを買うことはおすすめできない。メンテナンスのたびに20万円の請求書がくることもある。

また、革ベルトにも注意。腕時計において革ベルトは消耗品だ。2年も使えば、主に汗による劣化で交換が必要になる。ところが4大ブランドの純正革ベルトは高いのだ。もちろん種類によるが、10万円超えは確実。メンテナンスと合わせると莫大な維持費になってしまう。

4大ブランドの中古ならロレックスと同程度の価格で買えるモデルもある

以上を踏まえると、おすすめはシンプルな3針(時針・分針・秒針のみのシンプルな文字盤)のステンレススティールストラップモデルということになる。人気やステータスを考えると、パテック・フィリップの「ノーチラス」や「アクアノート」、オーデマピゲの「ロイヤル オーク」が順当だろう。しかし近年、超高級ブランドのスポーツモデルが世界的に大高騰し、中古でも200万円オーバーと現実的なプライスではなくなってしまった。

唯一、価格的におすすめできそうなのが、ヴァシュロン・コンスタンタンの「オーヴァーシーズ」だ。スーツにもオフスタイルにも対応するスポーティなデザインで、3針ステンレススティールモデルが中古なら100万以内で買える。若干、知名度は落ちるものの、ロレックスより由緒正しいブランドであることは確か。きっと着ける者を特別な気分にしてくれるだろう。

文・吉本隆太(時計ライター)
 

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