出光興産は2025年2月27日、全固体リチウムイオン電池の材料となる固体電解質の量産に向け、硫化リチウム(Li2S)の大型製造装置を千葉事業所内に建設することを発表した。
固体電解質の重要な中間原料である硫化リチウムの製造能力を世界トップクラスとなる、バッテリー容量3GWh/年相当に拡大し、原料から中間原料、製品までの一貫したバリューチェーンを構築することになる。
自動車メーカーや電池メーカーのニーズに応え、2027~28 年の全固体電池の実用化を目指すとともに、その先の固体電解質の事業化を加速させるとしている。

なお、硫化リチウムの大型製造装置は、原材料となる硫黄は石油精製の過程で大量に産出されるが、危険物でもあるため、同じ敷地内に硫化リチウムの製造装置を設置することで移動距離を短縮できるメリットがあるのだ。

硫化リチウムの特性は、微粒な結晶体で、湿気に敏感であり水分と反応すると、人体に危険な硫化水素を発生させるため、取り扱いは極めて注意が必要である。また製造ノウハウも需要で、とくに大規模な製造装置では安定した粒子を生成するための専用の技術を駆使することが求められる。


硫化リチウムの大型製造装置の完工は2027年6月が予定されており、トヨタの全固体電池の市販化に向けてタイミングを合わせている。そして、このプロジェクトは経済産業省から「蓄電池に係る供給確保計画」として認定され、総事業費の約213億円のうち、約71億円が最大助成額として予定されている。

また、敷地面積は約1万m2という硫化リチウムの大型製造装置の生産規模は、1000トン/電池容量で3GWhが想定され、これは平均的なEV台数換算で約5〜6万台に相当する。この大型製造装置は大規模な投資であるとともに、硫黄の搬送を考慮し、近接する石油精製プラントと協調させるなど、千葉事業所にとっては大規模プロジェクトに位置づけられている。

なお、千葉事業所では次世代燃料として航空機業界向けのCO2排出を大幅に低減する持続可能な航空燃料(SAF)の製造に着手している。また、使用済みプラスチックをオイル化する再資源化プロジェクトとして「樹脂油化ケミカルリサイクル」の実証を行なう施設の建設も行なうとしている。
SAFは2030年までに50万kL/年の国内供給体制を目指しており、千葉事業所ではエタノールを原料とし10万kL/年のSAFを製造する設備を建設することになっている。

出光は2027~28年頃の全固体電池の実用化を想定し、全固体電池に不可欠な材料である硫化リチウムをベースとした固体電解質の開発と量産体制の構築を推進している。現在、2つの小型実証設備が稼働しており、さらに2024年10月には大型パイロット装置の基本設計を開始している。
この大型パイロット製造装置を稼働させ、固体電解質の量産を進めるためには中間原料の硫化リチウムも量産化が必須であることから、今回の硫化リチウムの大型装置の建設決定にいたったわけだ。

出光は、1994年に石油精製の脱硫工程の産物として、大量に発生する硫黄を利用していちはやく硫化リチウムを試作した。そしてこれを利用する全固体リチウムイオン電池用の固体電解質の研究に着手し、2004年には世界初となる液体電解質と同等の固体電解質でのイオン伝導性を実現している。この結果、2009年には試作の固体電池を発表しているが、当時は大きな反響は得られなかったという。

時代のトレンドが大きく動き、現在では次世代の高性能電池として全固体リチウムイオン電池が脚光を浴びている。出光は2013年からトヨタと全固体電池の共同開発を行なっており、2023年には実用化・量産化に向けてコラボレーションを推進することを発表している。

出光はすでに2ヶ所で硫化リチウムのパイロット製造装置を稼働させているが、それぞれ異なった物性の硫化リチウムを製造しており、トヨタ向けの製造装置では微粒子化(1ミクロン以下)粒子表面が柔軟な特性であることが特長で、もう1ヶ所で製造されている硫化リチウムは他社向けで異なる物性という。

出光の硫化リチウムの量産化、硫化リチウムを原料とする固定電解質の生産により、全固体電池の実用化は大きく前進し、2027年~2028年頃の実用化は現実味を帯びてきているが、一方で現時点での予想では液系電解質のリチウムイオン電池よりコストが高いと想定され、当面は液系電解質のリチウムイオン電池と同等レベルまでコストを下げることも課題になっている。
提供・AUTO PROVE
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