カナダのアリマンタシォン・クシュタール(ACT)から買収提案を受け、その対抗策として経営陣による自社株買収(MBO)と非上場化を目指していたセブン&アイ・ホールディングス(HD)は、MBOを断念した。それに伴い井阪隆一社長が退任。事実上、MBO不成立の責任を取ったものだとみられているが、ACTは日本事務所の設立を検討しているとも伝えられており、買収に向けた動きを加速させている。セブン&アイHDはACTに買収されるか、単独での存続の二者択一を迫られた格好だが、国内最大のコンビニエンスストアチェーン「セブン-イレブン」の運営元が外資系企業になる可能性は高いのか。また、仮にそうなった場合、同社、そして日本の消費者にとってはメリットとデメリットのどちらが大きいのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。

 ACTがセブン&アイHDに提案している買収金額は約7兆円で、もし成立すれば日本企業がかかわる買収案件としては過去最大となる。セブン&アイHDは対抗策として創業家による買収を模索してきたが、障害となったのが8兆円にも上るとみられた買収資金だ。金融機関からの融資と投資ファンド、事業会社からの出資によって資金を確保しようとしたが、有力な出資候補者だった伊藤忠商事が出資見送りを決定。約1兆円の出資を見込めなくなったことを受け、その直後にセブン&アイHDがMBOを断念したことが明らかとなった。

 今月4日には読売新聞が、セブン&アイHDの社外取締役からなる特別委員会がACTからの買収提案の拒否を決めたと報じたが(セブン&アイHDは否定の声明を発表)、同社の株価はさえない。ACTの昨年9月時点の買収提案は1株あたり18.19ドル(約2700円)だが、セブン&アイHDの株価は今月5日時点では2000円を割り1990円台で推移している。セブン&アイHDとの合意なしでACTが株を買い進めれば、買収が成立する可能性もある。

完全に単独経営を貫くのは難しい状況へ

 セブン&アイHDが運営するセブン-イレブンは全国に2万1743店舗を構える国内最大のコンビニチェーン。単独経営に向けて企業価値を高めるため、昨年10月には2030年度にグループ売上高を23年度の約1.7倍の30兆円に拡大させる計画を発表。店舗数を30カ国・地域で計10万店に引き上げることも発表した。そんな同社がACTに買収されて外資系企業になる可能性はあるのか。経済評論家で百年コンサルティング代表の鈴木貴博氏はいう。

「セブン&アイHDがACTに買収される可能性は、現時点では五分五分の状況です。創業家のMBOが進んでいたときは7割方そちらに決まるかと思われましたが、リスクが高まりました。この先、井阪社長が退任し、後任に社外取締役のスティーブン・ヘイズ・デイカス氏が起用される方向で調整が進んでいます。セブン&アイHDとしては初の外国人社長ですが、デイカス氏は日本育ちで日本語は流暢です。同氏はユニクロの海外事業の責任者を経て西友の立て直しを担ったプロ経営者でもあります。買収を逃れるには企業価値を上げるしかないわけで、その観点では最も有望な関係者に白羽の矢がたったといえます」

 単独での経営維持は難しくなったのか。

「デイカス新社長をめぐる経営環境は極めて厳しいものです。創業家によるMBO断念に次いで、井阪社長退任、その後、セブン&アイHDは買収提案を拒否するというニュースが駆け巡った結果、セブン&アイHDの株価は2000円を割り込む大幅な下落となりました。買収提案拒否報道についてはその後、同社から『そのような事実はない』と否定コメントが出されたことで株価は持ち直しますが、それでも3月4日の終値での時価総額は5.3兆円まで下落しています。

 ACTからの買収提案は約7兆円ですから、新経営陣は今と比較して3割以上企業価値が向上するような結果を出さないと、株主からの『買収を受け入れろ』という圧力を跳ね返すことは難しい状況です。仮に買収は拒否できたとしても、アメリカのコンビニ事業のIPOを実施して、ACTにその株を一部持ってもらうような妥協案も必要となるかもしれません。少なくとも完全に単独経営を貫くのは難しい状況へと追い込まれたことは間違いありません」(鈴木氏)