地方創生はさまざまな領域で模索されている。例えば農林・漁業では製造・流通に業域を拡大する6次産業化、観光業ではインバウンド需要の喚起・吸収、医療業では商店街で健康増進サービスを提供する医商連携など、それぞれが自業界の特性を軸に据えた施策を打ち出している。その基盤をなすのは人材確保・育成である。

 北関東でひとつのプロジェクトが動き出した――。東京駅から東北新幹線と宇都宮線を乗り継いで約80分。栃木県北東部の矢板市は各所で鉱泉が湧き出し、豊富な森林に囲まれた風光明媚な地方都市である。人口は2万9451人(2025年1月1日)。

 この矢板市が新たな人材確保・育成の施策を仕掛けた。25 年 2 月 10日に総合人事・人材サービスを展開するアデコ(東京都千代田区)と「地域共同事業に関する包括連携協定」を締結し、市内企業の採用力の強化や市内の人材育成、就労促進などに取り組んでいく。

 矢板市とアデコの連携事項は(1)矢板市内の企業における採用力強化に関すること(2)矢板市内の企業におけるDXの推進に関すること(3)矢板市内における人材育成に関すること(4)矢板市における人材の就労支援及び活躍推進に関すること(5)矢板市における人材の定着に関すること(6)その他、地域の活性化に資する取組に関すること。協定期間は25年2月10日から26年3月31日までだが、申し出がない場合は、その後も継続される。

 矢板市は、21 年3月に「矢板市総合計画」と「矢板市まち・ひと・しごと創生総合戦略」で構成される「やいた創生未来プラン」を策定して、市の活力強化を進めてきた。そして、24年4月に矢板市長に就任した森島武芳氏は、「矢板をよりよくする政策7本柱」を掲げて同市のさらなる活性化に取り組んでいる。

 森島氏は1986年生まれの38歳。矢板市立矢板中学校、栃木県立宇都宮高校、筑波大学を卒業して筑波大学大学院博士前期課程修了。その後リクルートに勤務し、矢板市議会議員を経て市長に就任した。「矢板をよりよくする政策7本柱」とは、①雇用・経済②子育て③ 教育④高齢者福祉⑤公共交通・道路⑥ 防災⑦イベント支援・矢板 PRであり、このうちの①雇用・経済の実現の一環としてアデコと包括連携協定を締結したのである。

 調印を終えて森島氏は、矢板市の雇用問題に言及した。

「現在、本市の子育て世帯の共働き率は8割以上で年々増加しています。一方、市内の就業者約1.4万人の約半数が市外へ通勤しているという状況もあります。こうした中、雇用の創出と合わせて、仕事と育児の両立支援、シニア層の就労促進、外国籍人材の受け入れと活用などが重要な課題となっています」

 そのうえで「アデコ株式会社と包括連携協定を締結し連携することで、課題の解決に取り組み、地域振興を目指してまいります」と決意を新たにした。

 アデコは世界 60 の国と地域で人材サービス事業を展開するAdecco Group が日本に開設した法人のひとつ。コンサルテーションを通じて働く人々のキャリア形成を支援しながら、人材派遣、人材紹介、アウトソーシングなどのソリューションを提供している。

 同社・平野健二社長は、自身が矢板市で生まれ育った縁を持っている。おのずと包括連携協定に深い思いを抱いているようだ。

「栃木県内の自治体では初めて、矢板市と包括連携協定を締結させていただきました。弊社ではこの協定を通じて、地元企業におけるDX推進やリモートワークをはじめとする柔軟な働き方の導入支援、リスキリングによる人材育成などの取り組みを通じ、矢板市のより一層の発展に貢献してまいります」

 郷里の発展は、平野氏にとって、おそらく格別に心血を注ぎたい「我が事」かもしれない。連携事項一つひとつの成果を待ちたい。

提供元・Business Journal

【関連記事】
初心者が投資を始めるなら、何がおすすめ?
地元住民も疑問…西八王子、本当に住みやすい街1位の謎 家賃も葛飾区と同程度
有名百貨店・デパートどこの株主優待がおすすめ?
現役東大生に聞いた「受験直前の過ごし方」…勉強法、体調管理、メンタル管理
積立NISAで月1万円を投資した場合の利益はいくらになる?