「標高4500メートルの山の空気」が、もし錠剤になって手軽に服用できるとしたらどうでしょうか。

実際、アメリカ・カリフォルニア州のグラッドストーン研究所(Gladstone Institutes)をはじめとした研究チームは、そんな“山の空気”の恩恵を模倣する薬「HypoxyStat(ハイポキシスタット)」を開発し、重いミトコンドリア病のマウスの寿命を3倍以上も延ばし、深刻な脳の損傷さえも回復させることに成功しました。

将来的にはミトコンドリア病のみならず、ほかの病気への応用も期待されています。

研究内容の詳細は『Cell』にて公開されました。

目次

  • 酸素が多すぎると逆に病状が悪化する?
  • 薄い空気環境を薬で得る

酸素が多すぎると逆に病状が悪化する?

薄い空気環境を錠剤化:低酸素の恩恵を再現する新薬を開発
薄い空気環境を錠剤化:低酸素の恩恵を再現する新薬を開発 / HypoxyStatを毎日経口投与すると、常酸素圧(21% O 2 )の空気を呼吸しているマウスに全身性低酸素症を引き起こした。この治療を疾患発症前に投与すると、 Ndufs4 KOマウスの寿命が劇的に延び、行動、体重、神経病理学、体温など、疾患のさらなる側面が救われた。 HypoxyStat は、病気の進行段階をかなり遅らせても回復させることができ、臨床的に扱いやすい低酸素療法として機能します。/Credit:Skyler Y. Blume et al . Cell (2025)

ミトコンドリア病の中でもっとも一般的なものの一つが「Leigh(リー)症候群」です。

この病気ではミトコンドリア――細胞内で酸素を使ってエネルギーを作る小器官――がうまく働かず、体内に使い切れない酸素が過剰に蓄積してしまいます。

酸素は生命活動に必須ですが、過剰になると細胞を傷つけ、結果的に組織や臓器の機能が損なわれるのです。

グラッドストーン研究所のアイシャ・ジェイン(Isha Jain)博士による先行研究では、呼吸する空気の酸素濃度を下げる(高地レベルの低酸素環境を再現する)ことでLeigh症候群モデルマウスの寿命が大幅に延び、脳の損傷などの症状も改善することが示されました。