今回の総選挙で最も驚いた結果は82.5%の投票率だ。前回は76.4%だったが、それを上回った。日本で昨年10月27日に衆議院選挙が行われたが、その投票率をご存じだろうか。53.85%だ。前回3年前の選挙の投票率より2.08ポイント下回り、戦後3番目に低かった。日本の国民は80%以上の投票率を想像できるだろうか。

ドイツ民間放送ニュース専門局ntvは「有権者(約6000万人)は選挙に強い関心を有している。ウクライナ戦争からエネルギーコストの急騰、物価高騰、そしてイスラム過激派テロ事件と、さまざまな不祥事、出来事が起きた。国民はそれらの出来事に対して不安と懸念を感じている。それゆえに、選挙に関心が出てくるわけだ」と解説していた。実際、選挙戦に入ってから2度のイスラム過激テロ事件が起きだ。移民問題と関連して、テロ問題は選挙戦後半の中心的テーマとなった。

当方が気になった点は、高い投票率はドイツの民主主義の成熟度を表しているといえるが、同時に、有権者の20%は投票日になってもどの政党に票を入れるか決定していないというのだ。固定票ではなく、浮動票だ。ntv局は路上で「どの政党を支持しているか」とインタビューしていたが、多くは「まだ決まっていない」とか「前回はA党に入れたが、今回はB党に投票しようかと考えている」と答えていた。ドイツでは約20%が浮動票という。

すなわち、国民は国や自身の問題を解決し、将来の夢や希望を実現するために、選挙や政治活動に関心が高まっているが、既成政党でどの政党がそれらの問題を解決できるか分からない。関心はあるが、心に響く政党が見つからないのだ。「浮動票20%」と「投票率83%」の世界から、ドイツ国民は現代の閉塞感を脱出するために懸命にその出口を模索している、といった姿が見えてくる。

ショルツ首相は2021年12月、緑の党、FDPのドイツ政界初の3党連立政権を発足させたが、その際、「われわれは時代の転換期に遭遇している」と述べ、新型コロナ感染問題、ウクライナ戦争、環境保護問題から再生可能なエネルギーへの転換などの難問に対峙し、一種の使命感を抱きながらスタートした。しかし、任期4年間を全うできず、連立政権は解体し、前倒しの総選挙となったわけだ。