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生産台数は限定33台、価格は約4億7400万円、ICEとBEVが選べる!
「いちばん好きなクルマは何ですか?」。自動車ライターという仕事に就いていると「いま最もお勧めなクルマは何?」と並んでよく尋ねられる質問である。後者はとても難しいのだけれど、最も好きなクルマについてはよほどのことがない限り変わらないから簡単だ。
私の答えは「アルファロメオ33ストラダーレ」。もっとも「新型」が出たいまとなってはフランコ・スカリオーネの、とか、1967年に出たほうの、といった断りを添えたほうがいいかもしれない。私にとって永遠のアイドルである。精密なミニカーもたくさん集めたし、同じシャシーのベルトーネ・カラボ(マルチェロ・ガンディーニ)やピニンファリーナ33/2クーペ スペチアーレも大好物だ。
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正直にいって不世出の名車というべきティーポ33のネーミングを、いくら「持ち主」とはいえ、そのまま安易に再利用などしていいものかと、新型デビューの報を受けた際には少々複雑な気分になった。筆者もオーナーだった8Cコンペティツィオーネ以来となるアルファロメオ製スーパーカーの出現は喜ぶべき事態だったが、昨今流行の「ヘリテージ頼りのビジネス」に多少嫌気がさしていたこともあった。
ヘリテージへの尊敬はブランドビジネスには重要である。アルファロメオは立派なミュージアムを運営するなど十分実践できている。いまさら過去の栄光を再利用したところで明るい未来にはつながっていかない、という思いも強かった。
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果たして2023年8月31日。33ストラダーレの名は復活した。カーボンモノコックボディにアルミサブフレームを持つミッドシップの2シータースポーツカーで、スタイリングには確かに1967年式のオマージュが効いている。誰がどう見ても33ストラダーレである。フロントの伝統的な盾グリルには新たなデザイン手法が採用され、その後の新型モデル(ジュニア)にも継承された。
33台限定で発表時には完売、というのはこの手のスペシャルモデルの常識だ。発表1年前のモンツァGPでレンダリングをポテンシャルカスタマーに見せたところ、その場で3台の成約があった。数週間で残りの30台のオーダーも決まった。実際にはもっと多くの購入希望者がいたようだ。アルファロメオは復活する33ストラダーレのオーナーとしてふさわしい人物を慎重に選んだという。ちなみに日本からも20名以上の希望者がいたらしいが、購入を許されたのはわずかに1名。普段からアルファロメオを愛用し、クラシックモデルのコレクションやサーキット走行を楽しむ真のエンスージアストである。
最終仕上げにオーナーも参加。新型33ストラダーレはアルファ復活の切り札
購入予定者は、発表を経て生産モデルの最終仕上げに入っていた33ストラダーレのプロジェクトチームに加わることが許され、ホイールデザインや細かな仕様決めを行ったらしい。車両価格推定300万ユーロ(約4億7400万円)は超高額といっていいが、ハイパーカー開発の現場に同席できたとなれば話は別。仕様はもちろん個別に決められるが、限りなくワンオフモデルに近いため、1台ごとに生産承認がなされ、なんと車台番号の一部(8桁の数字中6桁)さえオーナーの希望で決めることができるという。
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「なるほど、これなら過去の栄光と未来の展望となるブリッジとして新たな33ストラダーレにも存在理由があるな」と強く思ったのは、2種類のパワートレーンを用意していたからだ。ひとつはアルファロメオ製3リッター・V6ツインターボ+8DCTの内燃機関(ICE)で、620ps以上を発揮する。もうひとつが750ps以上のフルバッテリー駆動パワーユニットだ。3モーターを持つBEVのスーパーカーで、購入希望者はいずれかを選ぶことができた。このあたり、アルファロメオを含めたステランティス・グループの未来戦略にも重要な役割を果たしそうだ。アルファロメオもまた近い将来にフル電動化を果たすといわれている。
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正直にいってアルファロメオの現状は決して楽観できない。上手くビジネスが進んでいるように見えるマセラティでさえ、いろいろと不安を抱えているのだ。それ以上にアルファロメオの状況は芳しくない。コンパクトSUVのトナーレと新型ジュニアでかろうじてその命脈を保っているという状態である。フェラーリやランボルギーニのような勢いはまるでない。
裏を返せば、そういう状況だからこそ存在感をアピールする打ち上げ花火が必要だったのだ。そのためにシンボリックなモデルが必要とされた。33ストラダーレの復活は、そういった文脈の中で生まれた「古くて新しい」アイコンである。
開発は順調に進んでいる。2024年中のデリバリー開始に向けて、エンジン搭載車両のテストは佳境を迎えている。先日、最高速333km/h、0→100km/h加速3秒以内という「公約」を達成したという発表もあった。ちなみにフルバッテリー駆動モデルの加速性能はさらに過激で、0→100km/h加速は2.5秒以下という。
日本へはエンジン付きブルーの33ストラダーレがやってくる。筆者の近しい友人が購入した。彼の喜ぶ声を早く聞きたいものだ。
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提供元・CAR and DRIVER
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