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F1の栄光を携えロードカーを開発
マクラーレンと聞けば、誰もが名門F1チームを思い浮かべるだろう。事実、現在のマクラーレン・オートモーティブにつながるマクラーレン・カーズは、セナやプロストをワールドチャンピオンに押し上げた時代にテクニカルディレクターを務めたゴードン・マーレイの強い希望で設立された。F1デザイナーのマーレイはロードカー作りにも強い意欲を抱いていた。
同じ思いは、創設者であるブルース・マクラーレンも共有していた。天才レーシングドライバーであると同時にエンジニアとしての素養にも恵まれたブルースは、M6GTというロードカーを試作して日常の足として使っていた。しかし、この計画はブルース自身が1970年にレーシングカーのテスト中に命を落としたために頓挫する。
マクラーレン・カーズは、マーレイがデザインしたマクラーレンF1を皮切りに、メルセデス・ベンツSLRマクラーレンなどを手がけた後、2010年にマクラーレン・オートモーティブへと改名。このとき、車体とドライブトレーンの両方を自社開発する、純粋な自動車メーカーとしてのマクラーレンがスタートした。
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同年、マクラーレン・オートモーティブとして初めて発表したロードカー「12C」はV8ツインターボエンジンをカーボンモノコックボディのミッドに積むスーパースポーツだった。その後もマクラーレンは数多くのモデルをリリース。それらは12Cに何らかの改良もしくは改修を加えることで生み出された派生モデルと説明できる。
12Cのベースモデルとしての素養は卓越していた。この1台をもとに、2000万円台のエントリーモデルから最高速度が400km/hを越える1億円オーバーのハイパーカーまで作り上げることができたのだ。しかし、10年余の歳月を経て、ついに新時代の幕開けを告げるモデルが誕生した。それがアルトゥーラである。
新世代到来! アルトゥーラは洗練と効率を融合。圧倒的なファンを実現
アルトゥーラもカーボンモノコックを使用している点では12Cと共通。ただし、モノコックは完全新設計だ。軽量化を追求したマクラーレン・カーボン・ライトウェイト・アーキテクチャーを採用し、電動システムのバッテリースペースが確保されている点も注目される。
パワーユニットも全面刷新された。アルトゥーラはPHEV。メインエンジンは、ゼロから開発したV6ツインターボを積む。Vバンク角120度、排気量3リッターのツインターボエンジンといえば、同じくPHEVのフェラーリ296GTBと同様だが、マクラーレンのV6は一段と小型軽量化と高効率化を徹底した。パワースペックは585ps/585Nm。これに95ps/225Nmのモーターが組み合わされ、システム全体では680ps/720Nmを誇る。
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アルトゥーラのポテンシャルをじっくりと確認した。市街地ではこれまでのマクラーレン各車より大幅に洗練されている。ロードノイズやエンジン音が小さくなっただけでない。以前は信号待ちのたびに聞こえた「ジー」というささやきも消えていた。しかも、路面からゴツゴツというショックが伝わることはほぼ皆無。もともとスーパーカーにしては快適なことで知られるマクラーレンだったが、そのレベルが明らかに向上した。
サーキットでも、大幅なポテンシャルアップを確認。ステアリング・インフォメーションが芳醇なことは従来どおり。アルトゥーラはリアのスタビリティが改善され、多少頑張った程度ではスライドする気配さえ見せない。いままで何度となくマクラーレンをサーキットで走らせてきたが、限界に到達できなかったは、コーナリングマシンとして名高いセナ以来だ。
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新開発のV6エンジンはレスポンスが良好なうえに回転フィールも極めてスムーズ。アルトゥーラのトップスピードは330km/h。0→100km/h加速は3秒でクリアし、EVとして最大31km走る。まさに次世代を実感させる逸材である。
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文・ 大谷達也、写真・McLaren/提供元・CAR and DRIVER
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