この菌根茎をもつ個体は、地中の菌類から炭素を得ている可能性があり、研究チームはこれに着目しました。
研究者たちは、
1:菌根茎をもつ個体ともたない個体の比較
2:植物体内の炭素の安定同位体比の測定(菌から得た炭素の割合を調べる)
3:成長速度や花の数の分析
といった方法で、菌への依存が植物の成長や繁殖にどのような影響を与えるのかを調査しました。
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研究の結果、菌根茎をもつコケイランは、
・通常の根だけをもつ個体よりも炭素の安定同位体比が高い (菌からの炭素摂取量が多い)
・葉が大きく成長し、花の数も多かった
という特徴があることが明らかになりました。
つまり、菌類から炭素を得ることによって、植物はより多くのエネルギーを確保し、繁殖に有利になるという結論が導かれたのです。
これは「暗い環境だから仕方なく菌に依存している」という従来の仮説を超え、菌に寄生することが利用可能な炭素量が増加させ、成長や繁殖に有利に働くことを示した重要な研究成果です。
この研究の意義は、菌従属栄養植物の進化の背景を理解する手がかりとなる点にあります。
これまでの研究では、菌への寄生は「環境に適応するための消極的な戦略」と考えられてきました。
しかし今回の研究は「寄生することで、むしろ成長や繁殖が促進される」という事実を示しました。
これは将来的に光合成を完全に放棄する植物が現れる過程を説明する一つの鍵となるかもしれません。
コケイランのように「光合成をしつつ、菌にも依存する」中間的な植物を研究することで、 植物がどのようにして菌従属栄養植物へ進化するのかが、より明確になっていくでしょう。
今後、さらに多くの植物の栄養戦略を解明することで、「なぜ植物は光合成をやめるのか?」という謎に迫ることができるかもしれません。