近年では世界的に脱プラスチックの動きが進んでいるなか、先月に就任したアメリカのトランプ大統領は今月10日、紙製ストローの政府機関への導入を廃止してプラスチック製ストローを導入する旨を定めた大統領令に署名。日本ではプラスチック製レジ袋の有料化やプラスチック製ストローから紙ストローへの切り替えが広まってきたが、米国政府の大幅な転換を受け、プラスチック製ストローより紙製ストローのほうが環境負荷が高く環境汚染につながるといった指摘も相次ぐなど、議論を呼んでいる。紙製ストローとプラスチック製ストローでは、どちらが環境負荷が高いのか。また、日本で政府が推進するかたちで進んできた脱プラスチックストロー・脱レジ袋の動きは、方向としては正しいといえるのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。

 トランプ大統領が反・環境保護の姿勢を強めている。先月の就任演説でも米国産石油・天然ガスの増産を打ち出し、環境負荷が低いとされる電気自動車(EV)の普及策も撤回。バイデン前政権が推進してきたESG(環境・社会・企業統治)投資の禁止や自動車の燃費基準の大幅緩和、気候変動対策の国際的枠組み「パリ協定」からの脱退も明言している。

 そうしたなかで新たに打ち出されたのが脱プラスチック製ストロー推進の廃止だ。日本ではプラスチックの過剰な使用の抑制を進めていくための取り組みの一環として、レジ袋の有料化を通じて消費者のライフスタイルの変革を促すため、「容器包装に係る分別収集及び再商品化の促進等に関する法律」(容器包装リサイクル法)の枠組みを基本とし、2019年、「小売業に属する事業を行う者の容器包装の使用の合理化による容器包装廃棄物の排出の抑制の促進に関する判断の基準となるべき事項を定める省令」を改正。20年に原則としてレジ袋が全国一律に有料化された。

 また、22年には「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」が施行。環境省は同法の趣旨について「プラスチック使用製品の設計からプラスチック使用製品廃棄物の処理まで、プラスチックのライフサイクルに関わるあらゆる主体におけるプラスチックの資源循環の取組を促進する」としており、たとえば飲食店や小売店に対しては「フォーク」「スプーン」「テーブルナイフ」「マドラー」「飲料用ストロー」について

「使用の合理化のための取組を行うことにより、プラスチック使用製品廃棄物の排出を抑制すること」

を要求。具体的に以下の施策を求めている。

「消費者にその提供する特定プラスチック使用製品を有償で提供すること」

「特定プラスチック使用製品を使用しないように誘引するための手段として景品等を提供(ポイント還元等)すること」

「薄肉化又は軽量化その他の特定プラスチック使用製品の設計又はその部品若しくは原材料の種類(再生可能資源、再生プラスチック等)について工夫された特定プラスチック使用製品を提供すること」

 これを受け、大手外食チェーンは一斉にプラスチック製ストローの紙製ストローへの置き換えを進めた。現在ではスターバックスコーヒージャパンをはじめ、紙ストローから植物由来のバイオマスプラスチック製ストローに切り替える動きも出ている。

ナノプラスチックとなり大気中に放出

 そうしたなか、そもそも紙製ストローのほうがプラスチック製ストローより環境負荷が低いという前提に懐疑的な声も出るなど、一部で議論を呼んでいる。京都大学 地球環境学堂 准教授の田中周平氏はいう。

「各種研究により、プラスチックは微細なプラスチック粒子であるナノプラスチックとなり大気中に放出されることがわかっています。人間をはじめとする生き物がこれを曝露すると、脳梗塞を発症する確率が上がったり、腸内細菌の構成が変わり代謝が悪くなる確率が上がることが研究によりわかっています。70~80年前には地球に存在しなかったプラスチックのゴミが空気中に増えており、約90%が循環プロセスに乗らず回収が難しくなっていることを踏まえれば、可能な限り別のもので代替していくというのが望ましいと考えられます。

 紙製とプラスチック製のどちらが環境負荷が高いか低いかという議論は、どのような観点で、どのような切り取り方で考察するかによって結論が変わってきます。紙製ストローにコーティングされている樹脂に着目すれば紙製のほうが環境負荷が高いといえるかもしれませんし、環境負荷が低いストローでも金属製を使用すると重量が増え航空機で燃料を使って輸送すれば環境負荷は高くなるといえるかもしれません。いずれにしても、生物に悪い影響を与える物質を環境中に残さないようにするということが重要であり、たとえば微生物の動きによって最終的には水と二酸化炭素に分解される生分解性プラスチックのように、できるだけ環境負荷の低い物質に置き換えていくという動きが望ましいといえるのではないでしょうか」

(文=Business Journal編集部、協力=田中周平/京都大学 地球環境学堂 准教授)

提供元・Business Journal

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