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イタリアンとは別種の個性。アストンは英国らしさを追求
最新のアストンマーティン・ヴァンキッシュは最高だった。何に驚いたかといって、そのドライブフィールだ。先代にあたるDBSはもちろん、21世紀になってからのモダン・アストンのいずれのFRモデルとも違っていた。
プラットフォームは新開発であり、ほとんど新設計というべきV12エンジンを積んできた。ビルシュタインと共同開発したDTXダンパーをはじめ新サスペンションシステムもまた「違う走り」を支えた要因に違いない。だが、走りに最も大きな影響を与えたのは車両レイアウトだろう。ヴァンキッシュは途方もないスペックを掲げたV12ツインターボをほぼフロントミッドに搭載する。ホイールベースはドアから前、そして前輪のホイールアーチまでが大きく伸びている。そしてトレッドも広がった。前後の重量配分は理想的な51対49である。
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そのV12エンジンといえば最高出力835psとハイスペック。数値はフェラーリ・ドーディチ・チリンドリ(830ps)を意識したに違いない。ターボエンジンゆえ最大トルクはなんと1000Nm。こちらはイタリアの駿馬より300Nmも上回ってきた。
地中海サルディーニャ島で走りを満喫。これは世界最上のV12GTである!
国際試乗会は「フネ好き」にはたまらないコスタ・スメラルダ(エメラルド海岸)のリゾートホテルを起点に行われた。サルディーニャ島の北部を駆け巡るルートである。
以前にも走った経験があり、道幅がさほど広くないことを知っていた。乗り慣れた英国製ライトウェイトスポーツでドライブするならいざ知らず、800psオーバーの超高級グランドツーリングカーを初テストする舞台としては少々辛いかも、と予想していたのだが……。
はたして少々荒れぎみの舗装が続く道を走り出してから5分もたたないうちに、抱いていたドライブへの不安は一掃された。いままでのアストンマーティン製FRロードカーにはなかったマシンとの人車一体感を感じたからだ。そういえばエンジニアが「ドライバーとのエンゲージングを最も大切にした」と朝のレクチャー時に語っていたのを思い出す。
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NVH性能も大いによくなっている。乗り心地そのものは先代DBSと同様にソリッド。だが気持ちのいい硬さである。DBSスーパーレッジェーラやその前のヴァンキッシュは、骨の太さだけが目立って、硬いフレームの中にドライバーが収まっているような感覚があった。新型は違う。硬いフレームの周囲をしなやかな筋肉が覆って、ほどよい弾性を感じる。
一体感ある走りは、カントリーロードで威力を発揮した。ノーズの長さはもちろん、広がった車幅もさほどプレッシャーにならなかった。細いカーブでトラックとすれ違うようなシーンでも、車両感覚がちゃんと把握できるから、怯むことなく抜けていけた。
ハンドリングはまさに意のまま。この感覚もまた歴代アストン製FRモデルの中でダントツに素晴らしい。ひょっとするとリアルスポーツの最新ヴァンテージを上回っている。思いどおりのラインを正確にトレースさせることができたうえ、フロントアクスル左右の支えが強固でしなやかだから、コーナーの内側を思い切りよく攻め込んでいけた。しかも曲がりの過剰さはまるでない。
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これほどまでにハンドリングパフォーマンスが向上した背景には、エンジン搭載位置や、見事な前後の重量配分、それに新たなダンパーシステムと強化されたシャシー&ブレーキを統合的に制御するシステムの優秀さが貢献している。
中でも後輪の制動力を活用して姿勢を制御する「コーナー・ブレーキング2.0」と、ヴァンテージ級の制動性を目指したブレーキ制御システムは素晴らしい。スポーツドライビングを楽しみたいドライバーには大きな味方になる。オシリが滑り出すような感覚はまるでなく、つねに地面に張り付く印象が勝っていた。それゆえ、いつでもどこからでも安心して踏み込んでいける。
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最も驚いたのは1000Nmの威力だった。オートマチック+スポーツモードで空いた直線路を走行中、前を走る遅いバンを追い抜こうとしたときのこと。対向車線に出て右足に力を込めたその瞬間、前もって加速の準備をしていたかのように(実はそうであることを後から知ったのだが)、かっ飛んだのだ。あっという間に速度計は大台を超えた。車体の安定感は凄まじく、速度感がないから、控えめなグラフィックメーターパネルの速度表示を見て、慌てて右足を緩めることに。重量を完全に忘れさせる力が1000Nmにはある。さらに強力なアシストとなったのは「ブースト・リザーブ」という加速の準備機能であった。
加速中に当たり構わず撒き散らかすエグゾーストサウンドも、最新モデルにしてはラウドで猛々しいものだった。ヴァンキッシュのこれぞ12気筒というノイズやバイブレーションは実に心地よい。この辺りはイタリア産を上回っている。
アストンマーティン・ラゴンダ社は12気筒エンジンを積んだFRモデルをヴァンキッシュに限定し、年産1000台以下に抑える予定である。デリバリー開始は来春からの予定。なお、世界で最も予約オーダーの多かったディーラー所在地は「東京」だという。
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提供元・文・西川淳、写真・ASTON MARTIN/CAR and DRIVER
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