経営統合に向けた協議が破談となった日産自動車とホンダ。直接的な理由としては、ホンダが申し入れをした日産の子会社化に対し日産が反発したためだと伝えられているが、根底にはホンダとの経営統合によって高額な役員報酬の引き下げや役員ポスト削減を嫌がった日産の役員たちの反対があったとも指摘されている。24年3月期の有価証券報告書によると、経営危機にあるはずの日産の役員報酬総額は約29.3億円と高額であり、ホンダのそれ(約17.9億円)の約1.6倍にも上り、同期に過去最高益を達成したトヨタ自動車の約36.9億円に迫る水準。ちなみに日産の内田誠社長の23年度の総報酬額は6億5700万円。さらに日産の役員の数は50人超にも上り、トヨタ自動車を大きく上回る。全国紙記者は「日産は社外取締役も報酬が高いことが有名で『おいしい仕事』だといわれている。自らの高い報酬とポストを失いたくないがために役員が経営統合に後ろ向きで、それによって協議が破談となり日産の再建が遠のいたのだとすれば、従業員にとっては悪夢としかいいようがない」という。

 ホンダと日産は今月13日、経営統合に向けた協議を打ち切ると正式に発表。昨年12月に基本合意書を締結してから2カ月もたたないうちに撤回されたことになる。

 日産は昨年11月、世界的な販売不振による業績悪化を受けてグローバルで生産能力の20%削減と従業員9000人の削減を行うと発表していたが、全国紙記者はいう。

「もともと両社は1月中に統合の方向性について一定の判断をする予定であり、ホンダはそれまでに日産がより具体的なリストラ策をまとめて経営の継続性に問題がないことを示してくると期待していた。一方、日産のほうにそこまでシビアな考えはなく、ホンダは子会社化したほうが日産もリストラを進めやすくなるのではと考えて提案したところ、日産から反発を受けた。日産の社員はプライドが高いという社風を十分に理解したうえで、統合話を壊すために、あえて反発を生む提案を持ち掛けたのではないかともいわれている」

保身のために会社の危機を深めた

 前述のとおり、日産の経営陣が統合に後ろ向きだった背景には、高額な報酬とポストを失うことを恐れたためともいわれている。実際に日産の役員報酬は高額だ。たとえば上級役員であるエグゼクティブ・コミッティの24年3月期の役員報酬の一部は以下のとおり。

・内田誠 取締役、代表執行役社長兼最高経営責任者:6億5700万円
・スティーブン・マー 執行役:6億7600万円
・坂本秀行 取締役、執行役副社長:1億9000万円
・中畔 邦雄 執行役副社長:1億6900万円
・星野 朝子 執行役副社長:1億6900万円

「両社は持ち株会社を設立して上場させる計画で、持ち株会社の取締役の過半をホンダが選ぶことになっていた。また、12月の両社による記者会見でホンダの三部敏宏社長が『日産のターンアラウンド(=事業再生)の実行が絶対条件』と明言していたとおり、ホンダが日産に経営のスリム化を要求するのに伴い役員数の削減と役員報酬の減額を要求することは必至だった。さらに経営の主導権をホンダに握られるとなれば、日産の役員たちが反発するのも無理はないが、ホンダとの経営統合以外に日産が生き延びる道が見つかっているわけでもなく、保身のために会社の危機を深めたといわれても仕方ない」(前出・全国紙記者)

 大手自動車メーカー関係者はいう。

「内田社長は強引に経営統合を進めようとして役員たちからの信頼を失った。そして、リストラで求心力が低下しているところに、ホンダに振り回された挙句に延命策である経営統合の話をまとめられず、社員からも信頼を失い、厳しい立場に追い込まれた。すでに今年度の最終損益が約800億円の赤字になる見通しだと発表されているが、今後、長期発行体格付けが格下げされて社債発行などの資金調達コストが上昇し、さらに25年度も赤字解消のメドが立たなければ、メインバンクからの退任圧力も強まってくる。社内外、そして市場関係者の間で内田社長が経営再建をできると考えている向きは少ない」