この状況を一変させたのが、2019年に大統領に就任したナジブ・ブケレ氏である。パレスチナ移民2世であり、元企業経営者の彼は、まずサンサルバドル市長を経て大統領に就任。それまでエルサルバドルでは2大政党が交互に政権を担っていたが、いずれもギャングの制圧に失敗していた。

大統領就任後、ブケレ氏は軍を味方につけ、ギャングメンバーを次々と逮捕し、刑務所に収監。さらに、刑務所内のギャング幹部に協力を求める一方で、彼らには一定の寛大な措置を講じた。その結果、現在までに約7万5000人のギャングと協力者が全国の刑務所に収監されている。

2015年には10万人あたり103人だった殺人発生率は、昨年には2.4人まで激減。この成果にもかかわらず、「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」は、政府の人権侵害を非難している。

ブケレ大統領の再選と米国との取引

この実績が高く評価され、本来は1期で終了する予定だったブケレ大統領は、最高裁の判断により再選が認められた。その結果、彼は85%の得票率で再選を果たした。

こうした背景のもと、エルサルバドルの刑務所にはまだ約2万人の収容枠が残っている。そこでブケレ大統領は、今月のマルコ・ルビオ国務長官の訪問に際し、米国からの凶悪犯罪者を受け入れる用意があることを伝えた。当然、彼はその対価として米国からの報酬を期待している。