中国の新興AI(人工知能)企業DeepSeek(ディープシーク)が米Open AIの「ChatGPT」に匹敵する性能を持つAIモデルを、米国製の10分の1以下のコストで開発したとして世界に衝撃を与えているディープシーク・ショック。AIモデルの開発力を大きく左右する半導体について、米エヌビディア製の最先端モデル「H100」の代わりに廉価版の「H800」を使用している点も注目されているが、最先端の半導体を使用せずとも高性能なAIモデルを開発できることが実証され、日本のAI関連企業にとっては大きな追い風になる可能性が出てきたと期待が高まっている。なかでも1980~90年代のAIブームで世界の先頭を走った経験を持ち、数多くの関連特許を持つNECの存在感が高まっているという。ディープシークの登場が日本のAI関連企業の飛躍に大きく寄与する可能性はあるのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。
ディープシークは、もともと私募ファンド運用会社を経営していた梁文鋒氏が2年前の2023年に創業。翌24年12月に言語モデル「DeepSeek-V3」を発表し、世界中から注目される存在となった。ディープシークの登場は日本企業に大きな影響を及ぼす可能性はあるのか。AI開発の第一人者である三宅陽一郎氏(東京大学特任教授)はこう解説する。
「世界のAI言語モデルの開発競争は現在、『技術より量』がモノをいう戦いになっており、どれだけ巨大な量のデータ、巨大なクラウド基盤、膨大な数のGPUを持っているかどうかがモノをいうため、最低ラインとして数百億円規模の投資を行えるGAFAのような企業が中心となっています。そうしたなかでディープシークが出てきたことで、そこまで大きなデータやインフラを持てなくても、アメリカンモデルとは違う戦い方で勝機をつかめる可能性が出てきたといえます。これからGPT-5世代の大規模言語モデルが出てくれば、ますますGAFAの存在が圧倒的になってきますが、日本のAI関連企業はGAFAをはじめとするホームランバッターたちとの闘いではトップになれなくても、ヒットを連発する戦い方で世界でプレゼンスを高めていくという道が見えてきたと言えます」
AIの戦いは10年以上前から始まっていた
三宅氏によれば、1980~90年代の第二次AIブームではNECは高い技術力を持ち世界をリードする存在だった。しかし、当時の80年代AIブームは世界的に見てもまだ研究が主軸でなかなかサービスやビジネスに結びつく領域が少なかったという。そして現在、日本企業は世界のAI競争で遅れているという言われ方をよくされるが、NECなど国内企業のなかにはAI分野で強い企業というのは多いのか。
「AIの言語モデルの領域でいえば、実はAIの戦いは10年以上前から始まっており、その第一幕がクラウドサービスでした。なぜなら、現在の言語モデルの学習もAI関連のサービスの提供もクラウドという基盤上で行われるからです。その市場における圧倒的な勝者はアマゾン、グーグル、マイクロソフトでした。その次の第二幕がビッグデータ解析のブームでしたが、ここでもビックデータをクラウド上にアップして解析するというモデルのために、クラウドで後手になっていた日本の企業はスタート手前からの努力を強いられました。
そして現在、第三幕として戦いの舞台がついにAIサービスの提供に移っているわけですが、こちらもクラウドとビックデータの基盤が前提となります。前述のとおり勝敗のカギを握る要素が『技術力より量』となっており、日本に開発に最低でも数百億円も投下できる企業というのはそこまで多くありません。一方でNECのほかにも言語モデルを開発して高い技術力を持つ日本企業があり、ディープシークの登場によって新しいアプローチのヒントを得て、今後どのような戦い方をしていくのか新しい局面に入りつつあります」(三宅氏)
そうしたなか、世界のAI開発競争においては大きな転換点ともいえる動きも出始めているという。
「これまでは巨大なクラウド基盤上に巨大な言語モデルを構築して、そこに世界中からアクセスするという流れでしたが、2024年の中頃から小型モデルを探求する動きが広がっています。できるだけ性能は落とさないまま言語モデルとインフラを小型化するというものですが、たとえばNTTはtsuzumiという小規模な言語モデルを開発しており、この領域では日本企業にも勝機の可能性があります」
(文=Business Journal編集部、協力=三宅陽一郎/AI開発者、東京大学特任教授)
提供元・Business Journal
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