記録的な米の値上がりを受け、商社や卸売り事業者など企業による主食用の外国産米の輸入が大幅に増える見通しとなった。2月7日付日本経済新聞記事によれば、23年度は368トンだった民間輸入は、25年には2万トン以上になる見込みだという。背景には激しい価格競争を強いられるなかで低価格を維持しなければならない外食企業からの需要があるが、なかでも低価格とボリュームの多さから“庶民の味方”として支持されている牛丼チェーンで今後、外国産米が使われる、もしくはその比率が上がる可能性に注目が集まっている。大手チェーンのすき家、吉野家、松屋の動向を探ってみたい。

 米の値上がりが家計を直撃している。農林水産省が昨年12月に発表した2024年産米の全国の作況指数(概数値)は101で「平年並み」だが、24年の新米の同年9月の相対取引価格は、全銘柄の平均価格が前年同月比48%高となり、06年の調査開始以来過去最高を記録。スーパーなどの店頭での5kg入り一袋の価格は、前年同月比の1.5~2倍、約1000円高というケースも珍しくない。値上がりは一般消費者向けの米に限らず、外食業界でも広がっている。すき家は昨年11月、牛丼の「並盛」を430円(税込/以下同)から450円に値上げ。同年12月、回転寿司チェーン「はま寿司」は全体の約5割のメニューを値上げ。ファミリーレストラン「デニーズ」は同月、ライスを税抜きで40円値上げ。天丼チェーン「天丼てんや」は今月、天丼を590円から620円に値上げしている。

 米の流通の滞りを受けて政府は先月、従来は大凶作などに限っていた備蓄米放出の運用を見直すと発表。農林水産省は備蓄米を21万トン放出する方針を決めたと報じられているが、民間企業でも輸入を拡大させる動きが強まっている。民間企業が輸入米を調達するルートは主に2つ。一つは、政府が関税なしで輸入した米を民間企業が輸入差益を国に支払って落札するルート。もう一つは民間企業が外国から直接仕入れるルートで、1kgあたり341円の関税がかかる。前者の輸入差益は上限が1kgあたり292円と定められており、後者の関税のほうが高いが、それでも一般的な国産米よりは低い価格で販売できるという。

国内の農家・農業はマイナスの影響を受ける

 輸入米の流通が拡大することで、国内の米の市場にどのような影響を与える可能性があるのか。東京大学大学院農学生命科学研究科教授の安藤光義氏はいう。

「輸入量がまだそれほど多くないので、現時点でははっきりとは分かりませんが、恒常的に外国から価格の割安な米が一定量、安定的に輸入される状態が定着するようだと、値上がりした国産米のマーケットが外国産米に取られていく可能性があります。実際にそうなるかどうかは分かりませんが、国産米の価格が高い状態が続くと、それよりも安い外国産米が売れるようになるのは確実ではないでしょうか。また業務用米としては、実質賃金が伸び悩むなかで消費者の間で低価格指向が強まっていますので、外食企業は消費者に選ばれる価格を維持するには、どうしても安く調達する必要があるわけです」

 国内の農家にはどのような影響を与えるのか。

「もし仮に国産米が外国産米にマーケットを取られる現象が起これば、国内の農家・農業はマイナスの影響を受けることになります。ただし、消費者は安いほうがありがたいわけですし、国民経済全体としてはプラスかもしれません。また、民間企業の輸入によって国には関税収入が入るので、その面では国として一定程度のプラスの効果があるでしょう。

 大きな背景としては、昨年から今年にかけて国産米の価格が上がり過ぎてしまったことがあります。昨年8月の南海トラフ地震臨時情報などの影響で23年産米の不足と値上がりが生じました。24年産の新米が供給されましたが米価の高騰は収まらず、流通量も回復していないようです。そのため外食業界や小売業界も背に腹は代えられず、民間輸入の動きが本格化しつつあります。政府も何か効果のある対策を打たなければならないということで、備蓄米の放出という話が出てきているのでしょう」