フォルクスワーゲンのD/Eセグメントサイズとなるパサートが9代目になり、試乗することができたのでお伝えしよう。
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まずはラインアップからセダンがなくなり、ステーションワゴンタイプのヴァリアントだけの投入となった。ボディサイズも全長が130mm長くなり、ホイールベースも50mm長くなっている。全長4915mm、全幅1850mm、全高1500mm、ホイールベース2840mmとかなり大きく長くなった。そのサイズアップはトランク容量と後席のスペースに活かされている。
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トランク容量は通常状態で690L、最大で1920Lという最大級の容量を確保し、また荷室フロアを低く設定しているので、使い勝手も良い。直線的なデザインを取り入れているため、荷室の積載も使いやすいと言える。
9代目となったパサートヴァリアントには3つのパワートレインがあり、1.5Lガソリンターボ+マイルドハイブリッド、2.0Lディーゼルターボ+4Motion(AWD)、そして1.5Lガソリンターボ+プラグインハイブリッドという3種類。試乗は1.5LのMHEVとPHEVの2タイプを試乗した。
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驚いたのはPHEVだ。いずれもMQBevoのプラットフォームを採用しているが、フォルクスワーゲンのEVはMEBプラットフォームであり、異なるものの、ほぼEVと感じさせる乗り味だったことだ。ある意味移行期にあることが明確にわかる9代目といえよう。
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PHEVシステムのEV走行可能距離は142kmもあり、日常はEVで賄える。さらに最高速度も140km/hまでEV走行が可能のため、国内であればEVだ。アクセルを大きく踏み込んでもエンジンはかからない。この辺りの制御からもEVをベースにしたPHEVであると感じるのだ。もっともキックダウンするほど踏み込むとエンジンは始動し、またバッテリー残量が少なくなった時や、140km/hを超えた時にはエンジンは始動するのだが、例外的な条件と言えるのではないだろうか。
組み合わされるエンジンも1.4LのTSIから1.5LのTSIevo2へと変更され、可変ジオメトリーターボのVTGターボとミラーサイクル運転をし、最大350バールの高圧噴射圧、プラズマコーティングされたシリンダー、冷却チャンネルを内蔵したピストンなども採用し、高効率なICEとなっている。
さらに搭載するバッテリーサイズも25.7kWh(NET=19.7kWh)と、従来の倍近いサイズにアップされており、ほぼEVと言える容量のバッテリーを搭載しているのだ。したがって、本国仕様では急速充電にも対応しており、CO2を排出する機会の少ないPHEVに位置付けている。
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残念ながら国内導入モデルのPHEVには急速充電には対応しておらず、おそらくCHAdeMOへの対応と、伴うコストアップがあったのだろうと想像する。しかしながら、現在のEVオーナーの環境意識は高く、PHEVが公共の急速充電システムを使用していても一昔前のように、懸念する声は薄れているのが現実だ。積極的にCO2削減を意識しているオーナーと捉えているのだろう。
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さて、その新型となったPHEVはワインディングを走っても、高速道路を走ってもEVであり、エンジンが稼働するシーンに出会わない。走行距離が140kmを超えたあたりでEV走行可能距離0kmとなり、ようやくエンジンはかかり、エンジンで走行をするが、とても静粛性が高く、EV走行時との落差を感じない点でも優れている。
さらに加速中はエンジン音はするが、滑空するようなシーンになると、エンジンはすぐに停止する。これはメーターパネルを見ていないと判定できないほど静かで滑らかに行なわれており、意識しないとエンジンなのか、モーターなのかわからないレベルなのだ。
したがって、EV走行距離が0kmを表示していても、少しエンジンで走行すると、次のシーンではEV走行するわけで、どっちのパワートレインで走行しているかを考えるのは馬鹿馬鹿しく感じてくるのだ。それほど緻密な制御が行なわれており、絶賛できる仕上がりと言える。
ちなみにPHEVの考え方では、従来はエンジン車をベースにモーターがアシストもしくはEV走行という概念だったが、このパサートヴァリアントPHEVはEVをベースにしてバッテリーが足りないなど、モーターでおぎなえない場合は、エンジンを稼働させるという概念に変わっている。だから少しでもバッテリーがあれば積極的にEV走行することになるのだ。これはBYDのPHEVも同じ思考であり、日本メーカーのPHEVではまだ、その思考へシフトチェンジは行なわれていない。
さて、パサートヴァリアントのサスペンションにはDCC-proを装備しており、画期的な乗り味の変化も楽しい要素だった。これはダンパーの伸び側と縮み側の減衰をそれぞれ独立して設定できるため、コンフォートな高級車から、引き締まったスポーティな走りの両立ができたことも驚きのひとつだった。
このようにICE用のプラットフォームMQBの改良型でも、ここまでEV化が可能であり、もちろんエンジン車はお手のものという印象だ。
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インテリアでは12.5インチのデジタルクラスターに15インチのセンターモニターを装備。センターモニターはタッチスクリーン式で、もはやラップトップPCと同じサイズのモニターが装備されている。しかしながら、タッチ式であり、左手での操作かつ、目的の操作は階層に入っており、改善はあるものの使い勝手はまだダメだ。
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例えば風量を変えるのも、ワンタッチしてからの操作であり、直感的には操作できない。ナビにおいても現在地に戻る操作が▲の時もあれば「地図」と書かれた文字をタッチしないと現在地に戻らない場合もあり、複雑怪奇。改善を要求するインフォテイメントである。
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一方で1.5LのMHEVモデルは、アクセルの早開きがあり、らしくない制御になっていた。ステアリングの操舵フィールも電動感が残り手応えはイマイチ。ただ加速してエンジンが勇ましい音を出すようなことはなく、高級なパサートヴァリアントに相応しい静粛性は確保している。
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このあたりのPHEVとMHEVに違いがあることは不思議だ。よく考えてみると、PHEVでありながら、ICE用のプラットフォームMQBevoで、ここまでEV化が可能としたことは高い技術力だと理解できる。そして、エンジン車はMQBならお手のものという印象だ。だが、開発当時のフォルクスワーゲンの事情をふり返ってみると、トップのヘルベルト・ディースから現在のオリバー・ブルーメに人事変更があったのが2022年。
開発コストと製品クオリティの争いはいつの時代にも存在するが、コストカッターとも言われたディースで開発が始まったパサートは、開発期間が短かった可能性も考えられる。したがってICEモデルのほうが得意なMQBだったが、詰めの甘さが残ってしまったのではないかと想像する。
そう考えると、マイナーチェンジやイヤーモデルでは制御の見直しも行なわれ、CHAdeMOにも今後は対応してくると予想している。現在のPHEVは自宅に充電環境がある人がメインターゲットになり、となると今なら、2.0L TDIを搭載しAWD機構をもつパサートヴァリアントの選択が正解かもしれない。個人的にはCHAdeMO対応したPHEVを待つかもしれないが。