独誌のルポから、少子高齢化、家庭の崩壊、高齢者の孤独といった日本社会の現実が浮かび上がる。もちろん、日本だけではない。少子化では隣国の韓国はもっと深刻だ。家庭の崩壊と言えば、欧米社会では至る所で見られる現象だ。ただ、高齢の女性囚人の増加現象では先進諸国の中でも日本はパイオニア的な立場かもしれない。
シュピーゲル誌は数年前、日本の若者にみられる「引きこもり」についても特集ルポを掲載していた。東京発のシュピーゲル誌は病む日本の社会的現象を鋭く掘り下げた記事が多い。今回の高齢者女性囚人ルポもその一つだろう。
少子化で、子供の数は年々少なくなってきている一方、医療技術が進んで高齢者は長生きできるようになった。その結果、高齢となって一人で住む人が多くなった。話す相手がいない生活が続く。そのような中で、高齢の女性が万引きなどの犯罪を犯すことで刑務所生活が始まる。そこでこれまで忘れていた生き生きした会話や人との交流が始まる、といったことだろうか。一人の女性囚人が「自分は今、家にいる」と語った。その女性囚人の言葉、「Ichbinzu Hause」がルポのタイトルとなっている。
ちなみに、孤独は人の魂を蝕むという。英国では2018年、メイ政権(当時)が孤独問題を扱う「孤独問題担当相」を任命し、欧州で先駆けて孤独に悩む国民のケアに取り組んでいる。当方が住むオーストリアでは老人と学生が共同生活する実験プロジェクトが実施中だ。老人たちは学生たちからその活力、エネルギーを受け、学生は老人たちから人生の経験を学ぶといった試みだ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年2月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。