このアイデアでは、宇宙船の後方で小規模なビッグバン(時空の膨張)を生み出し、前方で小規模なビッグクランチ(時空の収縮)を発生させます。

これにより、ワープバブルに包まれた宇宙船は、光速を超えて動く時空間の波に乗って、サーフィンのように移動していけるというのです。

ワープバブルの中は通常空間と同じ状態が保たれているため、ワープしている宇宙船の乗員と、その外から観測する人たちの間に、いわゆるウラシマ効果のような時間のズレは生じません。

これはさまざまな超光速航法のアイデアの中でも比較的現実味がある理論とされています。

ただ、比較的現実味があるというのは、実現できるという意味ではありません。

時空の収縮や膨張は莫大なエネルギーを必要とするため、現実的とは言えないと言われていますし、なによりこのアイデアは物理法則に従っていません。

一番の問題は、アイデアの肝となるワープバブルを形成するために負のエネルギーを必要とする点です。

負のエネルギーは、量子スケールの変動では存在しているとされていますが、私たちが利用できる形で存在するものではありません。

負のエネルギーを必要とするという前提条件の時点で、物理法則としては破綻したアイデアなのです。

ワープバブルのエネルギー密度の3次元的概略図。色の濃い領域ほど負のエネルギーが大きい。
ワープバブルのエネルギー密度の3次元的概略図。色の濃い領域ほど負のエネルギーが大きい。 / Credit:Wikipedia

そこで、今回の研究が提案したのが、この負のエネルギーの利用を回避して達成できる、アルクビエレ・ドライブの新バージョンなのです。

超高密度材料で宇宙船を包む?

アルクビエレ・ドライブの時空の膨張と収縮を示した図。3次元空間を平面で表現していて、面から上に隆起した領域を膨張、下へ落ち込んだ領域を収縮として表現している。
アルクビエレ・ドライブの時空の膨張と収縮を示した図。3次元空間を平面で表現していて、面から上に隆起した領域を膨張、下へ落ち込んだ領域を収縮として表現している。 / Credit: Gianni Martire (Applied Physics)

今回の研究チームが提案したのは、負のエネルギーのワープバブルの代わりに、非常に強力な重力場で宇宙船を包むというものです。