まず、目をこする(機械的刺激)と、目の表面を覆う「結膜上皮」の細胞(結膜上皮細胞)が物理的に引き伸ばされます。

この結膜上皮細胞には、「Piezo1(ピエゾ1)」という機械感受性イオンチャンネルがあります。

簡単に言うと、これは細胞膜に埋め込まれているタンパク質であり、圧力や引っ張りを感知すると開く性質を持っています。

そのため、目がこすられるとPiezo1が活性化して細胞膜に開口部ができ、その結果、細胞外のカルシウムイオンが細胞内に流入するようになります。

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結膜への機械刺激によって炎症性サイトカインが産生される仕組み / Credit:安達直樹(昭和大学)_どうして眼をこすってはいけないのか? 新たな理由を発見 ~機械的刺激が目の炎症を引き起こす仕組みを解明~(2025)

では、細胞内にカルシウムイオンが流入するとどうなるのでしょうか。

細胞内のカルシウム濃度の上昇が原因で、「炎症の引き金」となる経路が連鎖的に活性化し、最終的に炎症性サイトカインと呼ばれるタンパク質の一種である「IL-6(インターロイキン6)」が生成されるのです。

このIL-6は体内で炎症が起きた時に免疫細胞や組織から放出されるもので、免疫システムの調整や炎症の制御に重要な役割を果たします。

しかし、過剰なIL-6の生成は、慢性的な炎症や自己免疫疾患の原因となります。

つまり、「目をこする」という機械的刺激には、Piezo1の活性化を通して、炎症性サイトカインIL-6の生成を促進する効果があったのです。

ラットでも確認!「目をこする」物理的刺激そのものが炎症の引き金になる!

研究チームは、「目をこすると炎症が生じるメカニズム」を、ラットの眼を使用した実験でも確認しました。

ラットの眼にPiezo1の活性剤を投与し、観察することにしたのです。

その結果、ラットの細胞では、炎症性サイトカインの増加と好中球の浸潤が観察されました。

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機械的刺激が炎症性サイトカインの増加と好中球の浸潤を促す / Credit:Canva