かゆいときにかきむしるのは、昔から「かきすぎると悪化するからダメ」と言われてきました。
しかし、なぜ私たちを含む多くの動物が、本能的に「掻く」という行動を取るのでしょうか?
アメリカのピッツバーグ大学(Pitt)の研究によると、「掻くこと」にはアレルギー性炎症を増幅する面がある一方、細菌感染に対する免疫防御を高めるという意外な利点があるとわかりました。
一見、悪いことばかりに思える“かきむしる”行為が、実は生体防御に重要な役割を果たしているのかもしれません。
研究内容の詳細は2025年1月31日に『Science』にて発表されました。
目次
- 「掻いちゃダメ」ならなぜ動物は掻くのか?
- 掻くことはデメリットだけでなくメリットもある
「掻いちゃダメ」ならなぜ動物は掻くのか?
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慢性的なかゆみは、皮膚炎(湿疹)やアレルギー反応など多くの人が悩む症状です。
かゆみを掻く行為は皮膚を傷つけ、炎症を悪化させる「かゆみ—掻くサイクル」を招くことで知られています。
しかし、「掻く」行動は不快な痛みとは違い、むしろ快感を伴うことが多いという矛盾がありました。
これは掻く行為が、単なる悪習ではなく、進化的なメリットをもたらす可能性を示唆しています。
そこでピッツバーグ大学のダニエル・カプラン氏らの研究グループは、「神経」と「免疫」が連携して皮膚の炎症と細菌感染をどのように制御するのかを詳しく調べました。
特に「かゆみを引き起こすニューロンが皮膚の肥満細胞(マスト細胞)に作用する経路」や、「掻く行動が黄色ブドウ球菌などの皮膚細菌に与える影響」が詳細に調べられました。
調査に当たってはまず、かゆいときに掻く普通のマウスと、かゆみ感知ニューロンが除去されてた遺伝子組み換えマウスが用意されました。
結果、掻かないマウスではアレルゲンを与えてもかきむしる行動が減り、炎症が抑制されることが明らかになりました。