バブル前夜、ハイソカーのもうひとつの顔

断続的ながら続いてきた当連載もいよいよ第50回、今回はその記念として(?)、国産車の歴史を象徴するとも言える1台、タクシー仕様クラウンのカタログをお目にかけよう。

トヨタを、と言うにとどまらず日本を代表する、古い歴史を持つ車種であるクラウン。1955年の登場以来、半世紀以上にわたってその役割の大きな部分を占めてきたのが、タクシーであった。今回お目にかけるのは、そんな長い歴史を持つクラウンタクシーの中でも、七代目・S120型系のカタログである。

七代目クラウンは1983年8月に発売となったモデルで、「いつかはクラウン」というキャッチコピーで特に有名だ。先代・S110型系のコンセプトをさらに発展させた世代で、ボディスタイルはいよいよ直線基調となり、”クリスタルピラー”と称するリアピラーの処理が特徴であった。ボディ形式には4ドア・ハードトップと4ドア・セダン、バン/ワゴンがあったが(先代まで存在した2ドア・ハードトップは消滅)、タクシー仕様はもちろんセダンをベースとしたものである。

S120型クラウン・シリーズ全体は、3ナンバーの2.8L車と5ナンバーの2L車に大別することができるが、タクシー仕様は5ナンバー車の下位グレードに設定。すなわち、下からスタンダード、デラックス、スーパーデラックスの3種だ。先述のクリスタルピラー(シルバーとクリアーの二重のフィニッシャーをリアピラー部分にはめ込んだもの)はセダンにも採用されていたが、最廉価版であるスタンダードとそのひとつ上でしかないデラックスではこれは省略され、ただのグレーのカバーとなっている。

クラウンの伝統……と言えばまず想起されるペリメーターフレームだが、このS120型系では採用から五世代目。フロントサスペンションはダブルウィッシュボーン、リアにはセミトレーリングアームを採用したのがこの世代の特徴ではあるものの、セミトレ式リアサスは上級モデルのみで他は4リンク式リジッドであり、タクシー仕様ももちろん4リンクである。

搭載エンジンは、2LのLPGが2種類に2.4Lのディーゼルが1種類。まず、スーパーデラックスとデラックスに搭載された直6 OHCのM-PUがあり、これは最高出力95ps/最大トルク15.0kg-m。直4 OHVの3Y-PUはスタンダードだけでなくデラックスにも設定されたもので、最高出力90ps/最大トルク16.0kg-m。最後のディーゼルは直4 OHCの2L(型式名)で、最高出力83ps/最大トルク17.0kg-m、スタンダードのみ。このエンジンラインナップは後期型でも変わらなかったようである。

いつかのクラウン…確かに乗ったぞこのタクシー(50代以上限定!?)【魅惑の自動車カタログ・レミニセンス】第50回
ダッシュボード全体を見せる見開きは左ページが折り畳まれていて、広げると3ページの見開き(画像の状態)となる。室内の様子を念入りに紹介・解説するのは、やはりそこがタクシーにとって最重要の部分=運転手の仕事場となるからだろう。(画像=『CARSMEET WEB』より 引用)

個人タクシー向け上級グレード推しのカタログ
さてここでお見せしているのは、このS120型系クラウンの、タクシー仕様のみが掲載されたものである。サイズは297×243mm(縦×横)、ページ数は表紙を含めて全10ページ。2ヶ所が折り畳み式のページになっており、つまり3ページ展開となる見開きがふたつ盛り込まれている。発行は、「6009」のコードと「このカタログの内容は昭和60年9月現在のもの」の注記があるところから見て、1985年9月であろう。同年同月、クラウンはマイナーチェンジを受けて後期型に進化している。つまりこのカタログは後期型のものだ。

カタログは前述の3グレードの中でも最上級のスーパーデラックスがメインで構成されている。スーパーデラックスのみはカラードバンパーやクリスタルピラーを装着しいかにも豪華で、デラックスの方はスタンダードとほぼ同様の見た目ながら角型2灯ヘッドライトやフルホイールカバーを装備。この2グレードは個人タクシー向けのものと考えた方がよいだろう。

実際には当時の街に氾濫していたのはタクシー会社所有車両のスタンダードなので、あの頃を懐かしむには少々物足りない面もあるカタログなのだが、前期型のタクシーカタログではむしろスタンダードの方が前面に押し出されていたようである。このあたり、いかなる判断に基づくものなのか……前期型の時点でフリートユースの代替需要は概ね満たされたこととなり、後期型では個人タクシー需要の方を重視したということなのだろうか。あるいは後期型にもスタンダード重視のカタログが別に存在したのか。考えると興味は尽きない。

文・秦正史/提供元・CARSMEET WEB

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