大手ゲーム開発会社ガンホー・オンライン・エンターテイメントに対し、1月30日、大株主のストラテジックキャピタル(SC社)が株主提案をしたと発表。同社の営業利益は2014年と比較し23年度は約7割減になった一方、森下一喜社長CEOの役員報酬は約2.8倍、任天堂社長の金額に匹敵する3.4億円に増加している点に疑問を呈し、報酬制度の是正を要求。また、12年にリリースした「パズル&ドラゴンズ」以降、約20の新規タイトルの開発に累計1000億円以上の資金を投入したと推定されるにもかかわらず、ヒット作が出ていないと指摘。現預金がパズドラのリリース前の64億円(11年度末)から23年度末には1400億円にまで増えて経営に緊張感が失われているとして、緊張感を増すために株主配当を増やすよう要求している。専門家は「10年に1作出るか出ないかくらいの大ヒット作となったパズドラのリリース直後のほうが異常な状態といえ、そこと現在を比較することには違和感がある」「パズドラ以降、大ヒットが出ておらずパズドラ依存になっているという指摘は外れてはいないが、他の大手ゲーム会社にも共通していることであり、ガンホーだけの傾向ではない」と指摘する。

 ガンホーの株式の約5.4%を保有するSC社は1月30日、ガンホーが3月開催予定の定時株主総会において株主提案権を行使すると発表。SC社が開設したサイト「ガンホー再起に向けた抜本的改革のために」によれば、SC社がガンホーに要求している内容は以下のとおり。

・ガンホーの過去10年の株主総利回りはゲーム大手会社のなかで唯一のマイナス圏に落ち込んでいるが、森下社長の役員報酬は利益水準が10倍以上の任天堂の社長と同水準である。基本報酬・業績連動報酬・株式報酬型ストックオプションのうちの基本報酬が、過去10年間で1.21億円から1.82億円に増加し、任天堂社長の0.78億円を上回っている。よって、役員報酬について固定報酬:業績連動報酬の上限額の比率を現行の1:1から1:3に見直すべき。

・パズドラのヒットにより現預金残高が約1400億円にまで増えており、今後10年以上ヒット作が出なくても安泰でいられるため、ゆとり経営に陥っている。また、発行済株式数に占める自己株式の比率が年々上昇して32.9%に達した結果、配当の支払総額が毎年減少している。よって、ガンホー単体の現預金残高889億円の20%に相当する178億円(1株当たりでは318円)の配当を求める。加えて、自己株式の消却を株主総会で決議できるようにすること、保有する全ての自己株式を消却することを要求。

・パートナーシップを通じた非公開化が最善の選択肢である。

利益も時価総額もパズドラのブームの頃のほうが異常

 確かに営業利益と時価総額はここ10年で大幅に低下している。だが、23年12月期連結決算は営業利益が14年度と比べると約7割減となっているものの、279億円の黒字となっており、18年度以降はほぼ横ばいで推移。売上高営業利益率は22.2%と20%を超えている。ちなみに任天堂は31.6%、カプコンは37.5%、スクウェア・エニックスは9.1%。

 今回のSC社の指摘をどうみるべきか。ゲームプロデューサーの岩崎啓眞氏はいう。

「時価総額が2014年頃と比較して大幅に下がったという指摘ですが、ガンホーという会社は12年のパズドラのリリースのずっと前から存在するわけで、その長い歴史のなかでパズドラのヒット直後のピークだった時価総額と比較して下がっているという主張には疑問を感じます。ガンホーは2000年代、主にMMOをメインとして今よりずっと小さな規模で事業を展開していた時期があり、今回のファンドの説明ではそこが省かれています。時価総額の推移としても、パズドラのブームが落ち着いた15~16年以降は大きな変動はなく横ばいで推移しています。利益にしても時価総額にしても、パズドラのブームの頃のほうが異常だったという言い方もできるでしょう」

 SC社が開設したサイトでは、ガンホーを大手ゲーム会社各社と比較している。

「前提として、ガンホーはPCゲーム、オンラインゲーム、スマホゲームの会社ですが、メインはスマホゲームです。比較対象としてあげられているゲーム会社をみてみると、まずバンダイナムコはガンダムなどのIPビジネスを収益の柱としており、ゲームは確かに大きな事業分野ですが、専業とは言い難い会社なので、比較対象としてはあまりよくないでしょう。老舗の大企業である任天堂とソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)は自社でゲーム機を開発・販売するプラットフォーマーであり、スマホゲームはほとんどやっていません。コナミはコンソールとスマホの両方に力を入れており、リストアップされている会社のなかで比較的スマホに重きを置いているのは、バンダイナムコとスクウェア・エニックスくらいです。ガンホーと比較するのであれば、グリーやディー・エヌ・エー(DeNA)、KLabなどスマホをメインとする企業のほうが適切ではないでしょうか」