【ロンドン、シンガポール・ロイター時事】中国の新興企業ディープシークが低コストの人工知能(AI)モデルを公表したことによる世界的な市場の混乱「ディープシークショック」は28日のアジア・欧州市場でも続いている。投資家の間では「米中AI競争」が焦点になりつつある。

 ディープシークの低コスト・高性能AIモデルの投入により、「チャットGPT」のオープンAIなど、主要AI企業の優位性と高い評価額に疑問が生じた。米国株式市場が大荒れとなった27日、オープンAIのサム・アルトマン最高経営責任者(CEO)はディープシークのAIモデル「R1」は「目を見張る」と指摘。トランプ米大統領は、ディープシークの技術は米企業にとって警鐘となるべきだと述べた。

 アジアでは、ハイテク銘柄が多い韓国と台湾の株式市場は旧正月のため今後数日間、休場。中国本土市場も28日から2月4日まで休場で、主に日本企業に売りが向かった。28日の東京株式市場ではエヌビディアのサプライヤーであるアドバンテストが約11%急落。前日も9%近く下落していた。東京エレクトロンとソフトバンクグループは5%超下落した。

 ニューバーガーバーマンのポートフォリオマネジャー、岡村慧氏は昨年8月の日経平均をはじめとする世界的株安を挙げて、明らかに売りが先で講釈は後というアプローチだと指摘した。

 アジアのデータセンター関連企業も打撃を受け、マレーシアの複合企業YTLパワーは一時9%下落、3営業日連続で大幅安となった。

 序盤の欧州市場では、前日の米株市場で17%下落したAI関連銘柄の代表格エヌビディアが6%上昇。オラクルが3.4%、AIデータ分析会社のパランティアが2.97%それぞれ上昇している。しかし前日7.1%下落したオランダの半導体製造装置大手ASMLは反発して始まったものの下げに転じ1%安。ASMLと同業のASMインターナショナル、独半導体インフィニオン、仏シュナイダー・エレクトリックは1.2~4.7%下げている。

◇米ハイテク大手の巨額AI投資に脚光

 今回の株価急落で、投資先の集中と、米ハイテク大手がAI能力の開発に注ぎ込んでいる巨額の投資、そしてこれらの銘柄の一部の極めて高いバリュエーションが意識された。

 バーンセン・グループのデービッド・バーンセン最高投資責任者(CIO)は、27日にテクノロジー株が急落したのは、株価が非常に高かったことが一因と指摘。

「これらのテック株は多くの投資家のポートフォリオで過大なウエートを占め、株価指数でも大きな比重を占めていた。これは重大なリスクにもかかわらず、過小評価されていた」と述べた。

 割高な株を買うために多額の借り入れをしている投資家もいる。MFSインターナショナルのグローバル投資ストラテジスト、ロブ・アルメイダ氏は、27日は損失の穴埋めのために他のアセットも売られ、アルゴリズム取引も活発化し、下げが加速したと指摘する。

 折しも今週はアップル、マイクロソフトなどの米巨大テックの決算発表がある。経営陣は設備投資を巡る懸念払拭を図るとみられる。

 ディープシークは杭州に拠点を置く新興企業で、中国の企業記録によると、その支配株主はクオンツ運用を手がけるヘッジファンド「幻方(ハイフライヤー)」の共同創業者である梁文鋒氏となっている。先月、エヌビディア製の比較的性能が低い半導体「H800」を用い、600万ドル以下相当のコンピューティングパワーでAIモデル「V3」を訓練したと論文で明らかにし、世界的に注目を集めた。

 IGの市場ストラテジスト、ジュン・ロン・ヤップ氏は、ディープシークが最終的に米国のAI事情を一変させるゲームチェンジャーになるかどうかで意見が分かれていると述べ、「先に売って後で考える」思考が働いている可能性があるとの見方を示した。

 サクソのチーフ投資ストラテジスト、チャルー・チャナナ氏はディープシークのAIについて、世界のAI分野における競争が激化しており、エヌビディアが永遠にポールポジションにいるとは限らないことを示すものだと述べた。

「ディープシークは、性能は劣るがコスト効率の高いハードウエアを使用して最先端のAIモデルを開発した。米テック企業が高額なAIインフラに多額の投資を行っている状況に挑戦するものだ」と語った。(了) (記事提供元=時事通信社)

提供元・Business Journal

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