2019年10月の消費税増税前に、キャッシュレス決済が注目を集めている。キャッシュレス決済の方法もさることながら、消費者還元策として購買金額に応じたポイントが還元されることから、ポイント還元制度に対する関心も高まっている。

「ポイント還元制度」の前提となる「キャッシュレス決済」とは何か?

増税後のポイント還元制度とは、キャッシュレスで支払う場合に限り

  • 2019年10月から2020年6月までの9ヵ月間の期間限定
  • 対象の中小・小規模事業者では購買金額の5%が還元
  • フランチャイズチェーン店なら2%のポイントが還元

    という制度である。つまり「ポイント還元制度」は支払いが「キャッシュレス決済」の場合に限定された制度なのだ。

多種多様なキャッシュレス決済――クレジットカード、電子マネー、QRコード

経済産業省が定義する「キャッシュレス決済」とは、「物理的な現金(紙幣・硬貨等)ではなく、デジタル化された価値の移転を通じて活動できる状態」を意味する。

キャッシュレス決済の手段としては

  • 読み取り機を通して決済する「クレジットカード」
  • タッチ式の「電子マネー」
  • その場で口座から代金が引き落とされる「デビットカード」
  • アプリ上で購買履歴が参照できるスマートフォンを使った「QRコード」

    など、多くの種類がありそれぞれに特徴やメリットがある。支払いのタイミングも、事前に入金して使う電子マネーのような「前払い」、デビットカードのような「即時払い」、クレジットカードの「後払い」、さらにはQRコードのように、アプリで支払いのタイミングを選べるものもある。

キャッシュレス決済の効果は利便性と生産性の向上

キャッシュレス決済推進の代表的な効果は、利用者の利便性が向上することと、店舗側の生産性向上につながることだ。

利用者側としては、支払いの際に現金を財布から出してお釣りを受け取る煩わしさや手間を省くことができ、会計時間の短縮によってレジで待つ時間も節約できる。

店舗側としては、完全にキャッシュレス決済化が進めば現金を扱う必要がなくなるため、手間のかかる「レジ締め」作業を削減が見込める。これは近年社会的問題となっている人手不足解消にもつながる。

さらにキャッシュレス決済に慣れた外国人観光客の使い勝手も向上し、収集したビックデータを活用してより効果的な集客に結び付けるなどの効果も想定されている。

施策実施の背景は消費税増税後の消費の落ち込み対策

消費税増税によって、増税前の駆け込み需要が過熱し、増税後に消費が著しく落ち込むことも考えられる。その対策の一つが消費者へのさまざまな負担緩和措置である「キャッシュレス・消費者還元事業」(ポイント還元事業)。

ポイント還元制度の目的は、キャッシュレス決済推進による消費者の利便性の向上や需要平準化のみならず、事業者の生産性向上と中小・小規模事業者によるキャッシュレス手段を使ったポイント還元の支援の意味もあるのだ。

消費者に支払額に応じたポイントを還元する仕組み

中小・小規模事業者が事前に加盟店登録を行って「キャッシュレス・消費者還元事業(ポイント還元事業)」に参加すると、事業者自身でキャッシュレス決済端末や付属機器、システム利用料などを負担することなく導入できる。消費者がキャッシュレス決済した場合の5%のポイント還元についても国が補助金を出す仕組みだ。

一方、フランチャイズチェーン店については、端末やシステム利用料などの補助はないが、2%のポイント還元の原資として国から補助金が出る。

日本のキャッシュレス決済の動向は?

JCBはキャッシュレス決済に関する調査を実施し、その結果を公表している(2019年7月18日)。対象は全国の20代から60代の一般消費者1,000名と、同年代のコンビニエンスストアと居酒屋のレジ業務担当者やタクシー運転手300名。

コンビニエンスストア、居酒屋、タクシーでは8割以上でキャッシュレス導入済み

会計担当者に対する「あなたが勤務している場所では会計にキャッシュレスが導入されていますか」の質問に対して「導入されている」および「一部導入されている」と回答した割合は、

コンビニエンスストア 93.0%
居酒屋 77.0%
タクシー  74.0%

それぞれ「導入されていない」を大きく上回った。

「現金よりもキャッシュレス決済の方が便利だと思いますか」という質問に対しては、

とてもそう思う 35.2%
ややそう思う 45.5%
まったくそう思わない 19.3%

便利に感じる人が8割にも達している。日常生活でよく利用するコンビニエンスストアや居酒屋、タクシーに限ると、キャッシュレス導入は着実に進んでおり、消費者によるキャッシュレス決済への好感度も高いことがわかる。

小売店舗や観光スポットではキャッシュレス対応は発展途上

野村総合研究所が発表したクレジットカード決済が対象の「観光地におけるキャッシュレス決済の普及状況に関する実態調査(2017年2月28日)」によると、JCBの調査とは店舗側のキャッシュレス対応状況に違いが見られた。

食堂、麺類、喫茶店のような比較的客単価の低い飲食店ではクレジットカードに対応しているのはほんの25.0%だった。観光スポットである博物館、動植物園、娯楽施設などでは31.1%、寺院、寺社、仏閣はたったの9.4%しか対応していなかった。

ポイント還元事業がキャッシュレス決済推進を後押し

日本の消費者や外国人観光客の多くはキャッシュレス決済に便利さを感じているが、キャッシュレス決済を導入している小規模店舗はまだまだ少ない。それだけにキャッシュレス・消費者還元事業(ポイント還元事業)を機にキャッシュレス決済の促進に期待したいところだ。

ポイント還元期間中は対象となる中小・小規模事業者、またはフランチャイズチェーン店で積極的にキャッシュレス決済をして、増税後もお得さと話題の支払い手段を使う楽しみの両方を体験してみてはいかがだろうか。

執筆・近藤真理

証券会社の引受業務やビジネス系翻訳携わったのち、個人投資家として活動。現在は総合証券、ネット証券の両方を使いこなし、経済、金融、HR領域で多数の媒体で執筆中。2019年にフィナンシャルプランナーの資格取得。

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