<TOP画像:HDBがそびえたつ風景>
シンガポールでは、公営住宅がそびえ立つ賑やかな町並みを目にすることが多々あります。こうした住宅開発公社(Housing and Development Board 略してHDB)の公営住宅は国の住宅政策の根幹をなすものですが、単なる居住構造ではなく、その中にはボイドデッキと呼ばれる、一階に設けられた空間があり、特徴的な建築的特徴が見られます。
この空間には豊かな歴史があり、シンガポールの活気ある多文化社会を反映する多様な目的があると言っても過言ではないでしょう。
歴史的背景
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<実際のボイドデッキ風景>
ボイドデッキの概念は、シンガポールが植民地支配後の影響と第二次世界大戦によってもたらされた急速な都市化と住宅危機に取り組んでいた1960年代に、HDBフラット(HDBによる公営住宅)の設立とともに生まれました。
(本来 HDBは住宅開発公社を意味しますが、一般的には住宅開発公社により建てられる公営住宅を指すことが多いのが、現実です。)住宅に対する差し迫ったニーズを認識した政府は、急増する人口問題に対応するため、高層公共住宅を建設する大規模なキャンペーンを開始しました。
ボイドデッキはコミュニティの繋がりを促進するために導入され、住民同士の交流のための共有スペースとなりました。HDBフラットの1階にあるこのスペースは開放的で、多くの場合壁に囲まれていないため、動きを妨げられることがありません。
もともとはコミュニティ活動や集会用のシェルターとして設計されたボイドデッキは、瞬く間にシンガポールの社会構造に欠かせないものとなり、居住コミュニティの中心的な役割を果たすようになったということです。
建築的意義
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<コーヒーショップがあるボイドデッキの風景>
建築的には、ボイドデッキはコミュニティのニーズへの対応と見ることができると考えられます。このデザインは自然換気を可能にし、居住者に周囲との関わりを促します。また、オープンスペースは、子どもの遊び場からコミュニティーのイベントまで、さまざまな活動に対応でき、住民の帰属意識を高めるのに欠かせないと言えるでしょう。
HDBフラットは高さがあるため、広大なスペースが活用されていないことが多く、ボイドデッキはこうしたエリアを活気ある拠点に変えることができます。
通常、このようなボイドデッキには座る場所が配置され、コミュニティ掲示板が設置されています。時にはコンビニエンスストアやコーヒーショップのような商業スペースまでもがあるのです。
このような多用途性は、居住者の自発的な集まりを可能にし、多文化主義と調和を誇りとする国にとって極めて重要な社会的交流を育んだと考えられます。
コミュニティ活動とイベント
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<腰掛が設置してあるボイドデッキの風景>
実際には、ボイドデッキは住民の非公式な集いの場として機能しています。家族が誕生日を祝ったり、近所の人たちが何気ない会話を交わしたり、子どもたちがオープンスペースで遊んだりすることも多いのです。
HDBのボイドデッキは、シンガポールの多様な文化を反映し、旧正月、ハリラヤ、ディパバリなどの祝祭行事など、地域主導のさまざまな活動が開催され、発展しました。このような祝祭行事の際には、住民が集まって食事や喜び、文化を分かち合い、一体感を強めているのです。
また、日本では考えられないことですが、このボイドデッキでは中華系のお通夜、お葬式もなされることがあります。お通夜、お葬式がなされているすぐ側で、普段と変わらず、近所の子どもが遊具で遊びをしたり、老人がおしゃべりをしたりする不思議な光景が時々見られます。
さらに、これらのスペースはブロック・パーティーやお祭りのバザー、コミュニティ・ミーティングなど、よりフォーマルなイベントにも頻繁に利用されています。
地域のガバナンスが市民参加を奨励する中、ボイドデッキは近隣の問題やコミュニティの改善に関する話し合いに住民を参加させる上で極めて重要なものとなっていると思われます。その結果、帰属意識が深まり、コミュニティ精神が強化され、近隣住民間の支援ネットワークが育まれているのでしょう。
現代のニーズへの対応
シンガポールの発展と近代化が進むにつれ、ボイドデッキの役割もまた進化しています。人口動態が変化し、多くの居住者が多忙な生活を送る中、このようなスペースには適応性がますます求められています。
デジタル掲示板やWi-Fi対応エリアのようなハイテク・ソリューションが標準となり、ボイドデッキが若い世代に適応した場所であり続けることが今後求められるでしょう。さらに、雨水収集システムや垂直庭園など、環境に配慮した持続可能な設計の導入は、都市計画の優先事項が進化していることの証しでもあります。
さらに、シンガポールで生活する外国人労働者や駐在員が増える中、ボイドデッキは異文化交流を促進する貴重な機会となっています。このようなスペースで定期的に文化交流プログラムを開催し、住民がそれぞれの習慣や料理、言語を共有することで、ボイドデッキが国際的なコミュニティ形成の場となっている機会もあります。
まとめ
ボイドデッキは単なる建築物ではなく、シンガポールにおけるコミュニティの本質を象徴していると言えるでしょう。豊かな歴史に裏打ちされ、変化に適応し、社交の場として成長しました。
シンガポールを訪れる旅行者にとってボイドデッキの重要性を理解することは、この国の成り立ちや生活環境を形成し続ける革新的な精神をより深く理解することにつながるはずです。
文・写真・シンゴポール/提供元・たびこふれ
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