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スタイルはクーペSUV、ナビを含め装備はすべて標準
プロトタイプがなかなかの好印象だったことをお伝えしたフロンクスが、いよいよ2024年10月に正式発売された。
内外装の作り込みや装備の充実ぶりを見るにつけ、さらに最近の情勢を考えると、それなりの高価格になりそうな気がしていたのだが、プライスタグは200万円台中盤にとどまった。さすがは「良品廉価」にこだわるスズキである。これでテストコースで感じた美点が公道でも感じられればいうことなしだ。
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スタイリングは個性的である。既存のスズキ車との関連性はなく、他の何かにも似ていない。ちょっと表情がキツい気もするが、たしかに街中で映える。ダイナミックなクーペスタイルは印象的で、バックシャンでもある。デザインはヨーロッパをイメージしながら日本で練り、インドで仕上げたそうだ。最近は意識的にシンプルに仕上げるクルマが多い中、隙間なく何かを詰め込んだ外観は、小さいながらも存在感がある。全長が4mを切っているとは思えない。
クーペスタイルとはいえ実用性に配慮されているのもうれしい。コンパクトサイズながら後席も含め室内空間や荷室は十分に広く、快適装備も充実している。
インテリアデザインもまた、躍動感のある造形と色使いがいい。ブラック×ボルドーのちょっと渋めの2トーン配色のコーディネートは日本専用。落ち着いた中にも華やかさがある。装備では、前席シートヒーター、リアヒーターダクト、ドアミラーヒーター、ラゲッジボードが日本専用で付く。後席用エアコン吹き出しがないのは、日本仕様は「ヒーターダクトを優先したから」だという。
適度に引き締まった足回りが好印象。スポーツモードは楽しい走りが味わえる
ラインアップはモノグレードで2WDと日本専用の4WDが選べる。FFと4WDでは車両重量に60kgの差があり、車検証によると前軸重10kg、後軸重が50kg異なる。開発陣に聞くと、「同じ乗り味になるようにそれぞれチューニングした」そうだ。
足回りの開発は日本のテストコースを主体に行い、それをインドで反映させたとのこと。方向性としては、海外向けがスピードバンプ等も含めさまざまな路面に配慮しているのに対し、路面のきれいな日本では、よりフラットで運動性能を味わえるように調律された。
2WDと4WDを乗り比べたところ、車体剛性が高く、引き締まった足回りでしっかり路面を捉える骨太な走りが両車ともに味わえた。プロトタイプでクローズドコースを攻めぎみに走ったときには4WDの印象がよかった。公道で普通に乗ると2WDのキビキビとした軽快な走りがより心地よく感じられた。
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4WDは「音や振動の面で不利だ」と開発者が述べていたとおり、ややゴロゴロ感がある。4WDのリアサスは2WDと同様のビーム式で、諸々の位置関係で若干バンプ側のストロークが短くなっている。その影響ができるだけないよう煮詰めたというが、少し差を感じた。
後席に乗ると2WDのほうが微妙に乗り心地がいい。とはいえ4WDも悪くない。このクラスではあまり例がない前後ともクッションの厚いシートも効いて、凹凸を巧みに吸収してくれる。快適性は上々だ。不快に感じるシーンはない。
取り回し性も優れている。全幅は1765mmあるが、最小回転半径は4.8mと、確かに小回りが利く。狭い道も苦にしない点は日常生活で重宝しそうだ。
自然吸気の1.5リッター直4エンジン(FF101ps/4WD99ps)と6速トルコンATという、いまとなっては貴重な組み合わせのパワートレーンは、市街地ではマイルドハイブリッドの効果を実感する。
発進や再加速時にISG(モーター)がいい仕事をしていて、フラットなトルク特性のエンジンとあいまって、実に扱いやすい。
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直4エンジンで、トルコンATというのも筆者にとってはポイントが高い。この点は、運転好きには共感してもらえると思う。
スポーツモードを選択するとATが3000rpm以上を積極的に使う制御になる。市街地には不向きだが、使いやすいパドルシフトとともに、走りを楽しみたい気分のときには歓迎できる。
静粛性はハイレベル。パワートレーン系の音は多少車内に伝わってくるが、足元や風切り音など車外から侵入する音はよく抑えられている。後席に乗ってハッチバック車にありがちな後方から入ってくる音が、かなり小さいことにも感心した。おかげで同乗者と会話を楽しみながらドライブできる。
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先進運転支援装備は、このクラスではこれ以上ないほど充実している。ブレーキホールドや全方位モニターも標準装備されていて、スズキコネクトにも対応している。4WDには冬道に対応するデバイスや走行モードが搭載されていることもプラスポイントである。
最初にこのクルマの情報を知ったとき、「インドで生産するクルマをせっかくだから日本にも持ってきて売るんだな」程度の認識だった。だが実車に触れ、開発関係者から話を聞くうち、スズキの意気込みと戦略を理解した。
フロンクスは、本気で日本市場を意識して作り込まれている。そしてコスパが抜群に高い。売れ筋カテゴリーにスズキが送り込んだ刺客は、実に魅力的だ。「2024-2025日本カー・オブ・ザ・イヤー」の10ベストカーに選ばれた実力は本物である。
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