今月に発表された日産自動車とホンダの経営統合協議。もし経営統合が実現すれば販売台数ベースでは世界3位の自動車連合が誕生するといわれているが、専門家は「26年の経営統合時点で4位以下、その後も販売台数は低下する」と指摘する。日産はEV(電気自動車)、ホンダはHV(ハイブリッド車)に強みがあるため相互に事業を補完し合えることがメリットとされるが、「詳細に見ていくと技術面でも海外販路面でも補完し合える部分はほぼない」とも見方もある。世界の自動車メーカーがEVと自動運転の領域で熾烈な開発競争を繰り広げるなか、専門家は「両分野では中国メーカーが日産とホンダよりはるかに先を行っており、弱者同士が一緒になるだけで特に相乗効果は生じない」との厳しい見方を示す。

「日産の救済ではない」(ホンダの三部敏宏社長)、「自主再建の断念ではない」(日産の内田誠社長)――。今月23日の経営統合協議に関する会見で2社のトップが口にした言葉にも表れているとおり、今回の経営統合はホンダによる日産救済の色合いが強いという見方が市場では強い。日産の苦境は鮮明だ。日産の2024年4〜9月期連結決算は、売上高は前年同期比1.3%減の5兆9842億円、営業利益は同90.2%減の329億円、経常利益は同71.9%減の1161億円、純利益は同93.5%減の192億円。当初は3000億円の黒字予想だった25年3月期通期の純利益を「未定」に修正し、前述のとおり大幅な人員削減などのリストラ策を発表。販売不振が続く米国では約1000人が年内に退社する見込み。

 中長期の経営計画の見直しも余儀なくされている。3月に発表した中期経営計画「The Arc(アーク)」では26年度にグローバル販売台数を23年度から100万台増となる440万台に、営業利益率を6%以上に引き上げるとしていたが、11月には撤回した。

 さらに資金繰り面も懸念されている。日産は25~26年3月期に約1兆円の社債の償還を迎える。また、23年に仏ルノーとの資本関係を見直してお互いの株の15%を持ち合うかたちにした際、ルノーはそれまで保有していた日産株をいったん信託銀行に信託しており、日産は今後買い戻す必要があり、現時点で6億8600万株、約2500億円相当が残っているとされ、その買い戻し資金も必要となる。日産は9月末時点で約1兆4000億円の手元資金を持っているため、すぐに資金繰りに窮する可能性は低いとみられているが、昨年3月には米格付け会社S&Pグローバル・レーティングが日産の長期発行体格付けを「トリプルBマイナス」から投機的水準となる「ダブルBプラス」に引き下げ、今年11月にはムーディーズ・ジャパンが日産の発行体格付けの見通しを「安定的」から「ネガティブ」に変更(格付け自体は「トリプルBマイナス」で据え置き)するなど、格下げ圧力が強まっている。そのため、社債発行時に大きな上乗せ金利が必要となるなどして資金調達コストが上昇する懸念がある。

ホンダが経営統合を急ぐ理由

 そんな日産との経営統合をホンダが急ぐ理由は何か。ホンダは2040年までに新車販売のすべてをEVとFCV(燃料電池車)にする方針だが、これまで新エネルギー車としてはHVに注力してきたホンダは、世界のEV市場で出遅れている。

「日本の自動車メーカーとしてはトヨタに次ぐポジションのホンダといえども、年間販売台数400万台の規模で単独でエンジン車、EV、HV、FCV、さらには自動運転と全方位的に開発を手掛けるのは体力的に難しい。昨年にはEVやデジタル技術の面で提携していた米ゼネラルモーターズ(GM)との関係が解消されたこともあり、新たなパートナーを見つける必要に迫られており、手っ取り早く話を進められるのが、以前から車載ソフトウエアと部品の共通化について業務提携の交渉を進めていた日産だった。

 台湾・鴻海精密工業(ホンハイ)が日産の買収に向けた動きを強め始めたことを受けて、それを阻止するために日産とホンダが動きを速めたともいわれているが、日産と相互に株を持ち合うルノーが信託している日産株は、ルノーは日産の承諾なしに他社に売却することはできない取り決めになっているとみられ、ホンハイが日産を買収できる可能性はゼロに近いといっていい。なのでホンハイの動きは大きな要因ではない」(自動車業界関係者)