世界の歴史の中で「黄金時代」と呼ばれた時代は主に文化、哲学、医学、科学技術が著しく反映している。領土が拡大され、経済が反映した時代というより、文化・学問一般の発展が黄金時代を築いてきているのだ。だから、ロシアのプーチン大統領がウクライナ戦争に勝利し、領土を拡大し、キエフ大公の聖ウラジーミルの生まれ変わりを自負したとしても、プーチン氏の統治時代をロシアの黄金時代だったと後日指摘する歴史学者は少ないだろう。戦争で荒廃した領土からは文化の香りが消える。破壊からは国家、民族の文化は育たないからだ。
ちなみに、世界の歴史で最も長く続いた「黄金時代」といえば、古代エジプトだろう。約2000年以上にわたって統一国家を維持し、ピラミッドの建設、科学、技術、芸術が発展した。新王国時代(紀元前1550~1069年)は特に強力で、ラメセス2世などの王が繁栄を象徴している。 アジアでは中国の唐王朝時代だ。618年から907年と約300年間続いた。中国史上の「黄金時代」とされ、経済、文化、技術が飛躍的に発展した。シルクロードの交易が盛んで、首都長安は国際都市として繁栄した。詩人李白や杜甫の活躍もこの時代の象徴だ。また、インドのグプタ朝(320年から550年)はインドの「黄金時代」とされ、数学(ゼロの概念の発展)、天文学、医学、文学が栄えた。平和と繁栄が続き、仏教やヒンドゥー教の文化が広がった。
それでは、トランプ氏の「黄金時代」の始まりについて少し考えてみた。トランプ大統領が「黄金時代が始まった」と発言したのは、主にアメリカ国内での経済的復興を意味してきた。その意味で「黄金時代」は実際の歴史的概念ではなく、政治的なメタファーやレトリックとしての意味合いが強いかもしれない。トランプ氏の支持者にとっては、経済成長や雇用の増加などを基にした「明るい未来」の象徴として受け取られた面があるだろう。
明らかな点は、国民経済の発展、高騰するインフレ対策、雇用拡大だけでは「黄金時代」の始まりとはいえない。上述したように、過去の「黄金時代」は経済の発展よりは、文化、学問、芸術の発展がその主要な原動力だったからだ。