普通免許新規取得者の約7割がAT限定を選択し、MT車が「絶滅危惧種」となりつつあるなか、「希少なMTに乗ること」に価値を見出している愛好家は少なくありません。そうした人たちの大多数が、「生涯MTを貫こう」と考えていることでしょう。

しかしさまざまな理由から、「MT車を降りる選択」をした人も多いと思われます。真っ先に思い浮かぶ理由は「結婚や子育て」ですが、今回はそれ以外の事情でMT車を降りた人たちの話を聞きました。

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彼氏の影響でMT車を買ったけど…

彼氏の影響でMT車を買ったけど…

「マニュアルじゃなきゃ車じゃない!」→「すいません車でした」かつてMTにこだわった人たちが今ATに乗る理由
(画像=©sdivin/stock.adobe.com、『MOBY』より 引用)

まず話を聞かせてくれたのは、システム管理系の職場で働く40代女性です。20代の頃にはMTのスポーツ系車種に乗っていたといいますが、どのような事情でMT車を降りたのでしょうか。

「免許をとってからはワゴンRにbBと、当時周りで流行っていた車に乗っていました。でも22くらいで付き合った彼氏がチェイサーに乗っていて、MTの運転がカッコいいなと思うようになり、限定を解除したんです。

それから私はMTのマークIIを買って、2台で遊びに行ったりもしていたんですけど、2年ほどして別れることになって。原因は彼氏の浮気です。しかも、私と彼氏がよくお世話になっていた整備工場の人と、1年以上関係を続けていたみたいで。

なんだか一気に脱力して、色んなものがどうでもよくなってしまって。車の運転も楽しく思えなくなり、むしろ辛い気持ちになるばかりなので、マークIIを売ってまたワゴンRに乗り替えました。

私はその3年後くらいに結婚して、今では子どもも3人いますし、MTにまた乗ろうとは思いませんね。旦那も車に興味はなく、普通にミニバンと軽を維持しています」(40代女性)

このように、友人や恋人の影響で新たな趣味に目覚めるケースは珍しくないでしょう。これにより新しい生きがいを見つけられることもある一方、とくに恋愛が絡む場合、関係のこじれが「趣味との付き合い方」に影響を及ぼす面もあるのかもしれません。

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好きなメーカーがMTを出してくれない…

好きなメーカーがMTを出してくれない…

「マニュアルじゃなきゃ車じゃない!」→「すいません車でした」かつてMTにこだわった人たちが今ATに乗る理由
(画像=@ymgerman/stock.adobe.com,『MOBY』より 引用)

近年はスポーツモデルを扱っているメーカーであっても、MT設定をなくしているケースが珍しくなくなっています。そうしたメーカーのファンにとっては、車選びが難しくなる面もありそうですが……。

イタリアを代表するメーカー、アルファロメオのファンである50代男性(教育関係勤務)は次のように話します。

「若い頃に乗ったアルファロメオの145がとてもよくて、それ以来ずっとアルファを乗り継いでいます。今では考えられませんけど、当時の145はMTのスポーツモデルしか輸入されていなかったので、当然MTに乗って。

結果的に、その後も147、ジュリエッタとMTで買いました。乗っているうちに『アルファの小気味よいエンジンは、MTで味わってこそ』というコダワリも出てきていましたね。

でも最近のアルファはちょっと方針が違ってきていて、チャキチャキした車はラインナップになく、上質感をアピールしている感じで、MTもなくなっているんですよね。

なので買い替えるつもりはなかったんですけど、車検のときにジュリアの試乗を勧められ、ハンドリングは相変わらず素晴らしく、かなり優等生的な雰囲気にはなったものの、これはこれでいいのかな、と。

私ももう50半ばですし、余裕のある車でじっくりドライブを楽しもうと思い、ジュリアの購入を決めました。もちろん今もMTに乗りたくなることはありますが、ジュリアは今のライフステージにぴったりだと思いますね」(50代男性)

このように、MTと同時に特定のメーカーを愛好している人にとって、「そのメーカーからMT設定がなくなった状況」はかなり悩ましいものと思われます。

しかしこちらのお話のように、「試乗してみたら意外とアリだった」というケースもしばしば聞かれますので、まずはとにかく試しに乗ってみることが大切なのかもしれません。

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「うまく乗らなきゃ」がむしろ足かせに?

「うまく乗らなきゃ」がむしろ足かせに?

「マニュアルじゃなきゃ車じゃない!」→「すいません車でした」かつてMTにこだわった人たちが今ATに乗る理由
(画像=©Nobuaki Aoki/stock.adobe.com,『MOBY』より 引用)

スポーツ系の車種を愛好する人たちの間では、「車はMTで乗ってこそ」という風潮が強く感じられることもあるでしょう。しかし実際のところ、「車は好きでもMTの操作は苦手」という人がいたとしても不思議ではありません。

かつて免許をとってすぐにMT車を購入したという30代男性(製造業勤務)は、以下のような話を聞かせてくれました。

「子どもの頃から乗り物全般が好きで、とくに中学に入ってから、友達の影響でドリフトに興味をもつようになりました。自分もその友達も高校からバイトを始めて、免許をとってすぐに車を買ったんです。

そこまではよかったんですけど、友達に比べて自分の運転が下手クソだったんですよね。友達はすぐにシフトチェンジのギクシャクもなくなって、サーキットにも通い始めたのに対して、自分はずっと回転数を合わせられなくて。

そのまま2年くらい乗りましたが、その友達がサーキットで何度も車をぶつけているのを聞いて、『自分じゃすぐ廃車になる』と思い、自分にはそういう走り方はできないと悟ったんですよね。

それからはむしろ、ドリフトに関係なく車を選ぶようになり、ATのロードスターを買って。以前より運転も楽しくなりましたね。MTだと『上達しなきゃ』というのがプレッシャーになっていたんだと思います」(30代男性)

たしかに「車が好きであること」と「MTをうまく操れること」は、必ずしも一致するものではないでしょう。もちろん操作が上達しなくても、MT車を楽しむ自由はありますが、「上手にならなきゃ」という心情がプレッシャーになってしまえば元も子もありません。

このように、たとえスポーツ系の車に惹かれていたとしても、楽しみ方は「MTだけ」ではありません。MT車を降りた人たちの話からは、車との付き合い方に関するさまざまなヒントが得られるのではないでしょうか。