日本は肌寒い季節となってきたが、南半球に位置する南アフリカでは夏真っ盛り。12月から3月までは南アフリカ観光のベストシーズンだ。
美しいビーチにおしゃれなレストラン、ハイキング、サファリなど南アフリカには魅力的な観光地が盛りだくさんで、一度は行ってみたいと考える旅人も多いだろう。とはいえ、日本とは言語も文化もまるで異なる南アフリカ。現地の人に失礼にならないよう、最低限の知識は持っておきたいものだ。
南アフリカ人を妻に持ち、何度も南アフリカを行き来する著者が、南アフリカを訪れる前に最低限知っておきたいことを5つ紹介しよう。
1. 南アフリカは多民族国家
<フィッシュ・アンド・チップス。南アフリカではシーフードを含め、さまざまな国の文化が融合した料理が楽しめる>
南アフリカは「虹の国」とも呼ばれる多民族国家だ。アフリカ黒人が人口の80%を占めるが、一口に黒人と言ってもズールー族(Zulu)、コーサ族(Xhosa)、ソト族(Sotho)などさまざまな民族が入り混じっており、お互い話す言語も文化も異なる。
また、南アフリカ白人も人口の約8%を占めており、オランダ系移民の子孫「アフリカーナー」とイギリス系移民で英語を母語とする人々の2つの集団からなる。他にも、イギリス統治時代にインドからプランテーションや採掘のために連れて来られたインド系移民の子孫が人口の3%、インドネシアから連れて来られた人々を子孫とする「ケープマレー」と呼ばれる集団もいる。
そんなわけで、さまざまな民族が入り混じる南アフリカの公用語はなんと11か国語!それでも英語が幅広く使用されているので、英語さえ話せれば都市部ならコミュニケーションに困ることはあまりない。ただし、南アフリカの英語は、イギリス英語やアメリカ英語とは若干異なるので注意。
例えば、信号機のことを「robot(ロボット)」と呼んだり、「How is it going?(どうだい?)」の代わりに「Howzit」と言ったり。他にも「Great(すばらしい)」を意味するアフリカーンス語の「Lekker」や「Yes(はい)」の代わりにズールー語から派生した「Yebo」を使ったりする。
私が南アフリカに滞在していた時、やたらと「しゃぶしゃぶ」と声を掛けられたので何かと思って妻に尋ねると、実は「Shap Shap」で「All good(順調)」という意味らしい。 始めはちょっと戸惑うかもしれないが、広い心を持って多様性を楽しむように心がけよう。
<コーサ族の衣装を着た女性。アフリカの民族衣装は色鮮やかだ>
2. 人種差別の歴史
<白人専用と書かれたベンチ。アパルトヘイト時代には白人と非白人で厳格に区別されていた>
「アパルトヘイト」という言葉は、南アフリカに行ったことがない人でも一度は聞いたことがあるだろう。1994年まで南アフリカで施行されていた「人種隔離政策」だ。
すでにアパルトヘイトが廃止されてから30年以上経過し、表向きにはすべての人種が仲たがいすることなく平和に暮らしているように見える。しかし貧富の差はいまだ深刻で、世界銀行の報告書によると同国の富の80%を人口の10%が手にしていると言われ、「世界で最も格差がある国」のひとつに挙げられる。
出典:30 years on, South Africa still dismantling racism and apartheid's legacy | OHCHR
アパルトヘイト時代に「黒人居住区」として使用されていた地区を「タウンシップ」といい、残念ながら今でもトタン屋根の貧しい家が並ぶ地域になっている。ヨハネスブルクのソウェトのように観光地になっているタウンシップもあるが、その他の場所は観光地ではないので、興味半分で立ち寄ったり、写真を撮ったりするのはやめよう。
観光地になっているタウンシップを訪問する際も、歴史を学ぶ姿勢と現地の人への敬意を忘れないように。特に南アフリカ人は、「貧しくて教育程度の低いアフリカ人」というネガティブなステレオタイプで見られることを非常に嫌っている。
アパルトヘイトと人種差別という歴史を乗り越え、多くの人がアフリカに対して描く負のイメージを払しょくしようと努めている人がいるということも忘れないようにしよう。
多くの人が思い描くステレオタイプなアフリカについては、著者のブログ「コトバラウンジ・ジャーナル」で解説しているので読んでみてほしい。
3. 南アフリカの治安
南アフリカを訪れるにあたり、旅行者がまず心配するのは現地の治安だろう。ネット上には「世界最恐都市」「強盗遭遇率200%」等々、面白半分に誇張された表現が散乱している。
在南アフリカ日本大使館のデータによると、殺人発生率は日本の約60倍で1日の性犯罪発生件数は130件、凶器を用いた強盗は387件。確かに数字を見る限り、安全な国とは言えない。
私が初めて南アフリカを旅行した時もカージャックされるので赤信号でも止まってはいけないとか、入ったら15秒で殺されるビルがあるとか都市伝説レベルの話を数多く聞かされたものだ。
出典:20240903 犯罪統計【HP用】(2024年度第1四半期)
私自身は家族の都合で南アフリカを幾度も訪問しているが、強盗や詐欺などの被害にあったことはまだ一度もない。むしろ南アフリカ人は優しくて、礼儀正しい人ばかりだ。ただUberの運転手と話をしていると、後ろから首を絞められてお金を盗まれたとか、銃器を突きつけられたという話を何度も聞いた。
油断は禁物だが、夜中1人で歩き回らない、バーで酔ったりしない、タウンシップ等治安が悪いとわかっている場所に近づかない等、常識的な行動を心がければ、トラブルに巻き込まれることは少ないだろう。
ヨハネスブルグの治安に関しては下記記事も参照してほしい。
<ヨハネスブルグの治安悪化の象徴だったポンテ・シティ。2000年代初頭まで建物丸ごとギャングに占拠されていた>
4. 健康管理
初めて南アフリカを訪問した際、公衆トイレになぜか大量に避妊具が備え付けられているのを見てカルチャーショックを受けたことがある。理由の1つに南アフリカでまん延するエイズの存在があるそうだ。
著者は海外旅行保険会社での勤務経験があるが、留学中に羽目を外して性病に感染した若い学生を何人も見てきた。残念ながら、南アフリカはHIV感染者数が世界最多であり、感染すれば冗談では済まされない。南アフリカへの英語留学も人気があるが、旅行中・留学中は礼節をわきまえた行動を心がけよう。
とはいえ、南アフリカにはマラリアのようなアフリカ諸国に多く見られる風土病はあまりない。あまり知られていないが、南アフリカの医療水準は非常に高く、アフリカ諸国から治療を受けに南アフリカまで旅行する人々がいるほどだ。また浄水システムもしっかりしていて、ほとんどの地域で水道水をそのまま飲んでも問題ない。
普通に観光旅行を楽しむ分には恐れることは何もないが、私立病院の治療費は一度入院すると数百万円と高額になることもあるので、万が一を考えて海外旅行保険に入ることを忘れずに!
5. チップの習慣
欧米諸国と同じく、南アフリカにもチップの習慣がある。日本にはチップの習慣がないので面倒に感じることもあるかもしれないが、現地の人の大切な収入源なので忘れずに渡したい。
チップの相場はレストランであれば最低10%。ホテルのポーターには10~20ランド。また部屋の清掃スタッフ用に1泊につき20ランドを部屋に置いておこう。
サファリに参加する際は、ガイドにチップを渡すのもお忘れなく。1日当たり100~200ランドが相場だが、専属のプライベートガイドを付けた場合は200~300ランドが適切とされている。
まとめ
南アフリカはさまざまな民族や言語が融合した多民族国家で、日本とは言語も文化も大きく異なる。貧困や犯罪などアフリカにはネガティブなイメージもつきまとうことが多いが、南アフリカ人はフレンドリーで優しく、豊かな自然と文化を楽しめる。
この記事で取り上げた点を覚えておけば、観光旅行を安全に満喫でき、現地の人とも気持ちよく交流できるに違いない。
文・写真・Shinji Muto/提供元・たびこふれ
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