「単なるエネルギー分布の違いのことを大げさに「負の温度」のような言葉で誇張していたのか?」と思う人もいるかもしれませんが、決して大げさではありません。
負の温度を持つ物体は、正の温度の物体が決してできないことを可能にします。
負の温度の物体は「この世の何より」も熱く、どんなに高温の物体(たとえ無限大の温度でも)も加熱することができるという特性を持つのです。

正の温度の世界では、熱い物体から冷たい物体に向けてエネルギーが流れます。
たとえば100℃の物体Aと20℃の物体Bを接触させると、より熱いAからより冷たいBに向けてエネルギーが流れます。
これにより加熱する側がより熱いという定義がうまれます。
ですがここに負の温度の物体が参加すると、奇妙なことが起こります。
正の温度の物体を構成する粒子の大半は低エネルギー状態です。
それに対して負の温度の物体は総合的なエネルギー量が劣っていたとしても、ほとんどの粒子が高エネルギー状態に偏っています。
そのため正の温度の物体が宇宙で最も熱い温度を誇る物体であっても、負の温度の物体は接触と同時に正の温度の物体に熱エネルギーを与え加熱することができるのです。
加熱する側がより熱いという定義に基づけば「負の温度は、熱力学的には無限大の温度よりもさらに熱い状態」ということになります。

問題は、そのような負の温度の特徴を持つ物体をどうやって作るかです。
先にも述べたように、古典物理の描く正の温度の世界では、加熱によって物体の総合的なエネルギー量を増やすことはできても、高エネルギー粒子と低エネルギー粒子の比率を逆転させることはできません。
そこで研究者たちは、古典物理の枠組みを飛び越え、量子力学の世界で負の温度の実現を目指すことにしました。