精神科医の斎藤環さんと『心を病んだらいけないの?』を出してから、早くも5年が過ぎつつある。内容はいまも通用すると自負するけど、その5年間で、世の中ずいぶん変わったな、とも思う。
2020年5月の刊行だから、今日とのあいだに新型コロナウィルス禍がまるっと入るのは大きい。でもそれだけじゃなく、色んな要因で社会の空気が動いた気がする、より悪い方へ。
コロナが来る直前まで、日本の文化産業では「キラキラした明るい未来」が売り物になっていた。それはちょうど昭和の最末期、もうすぐ弾ける直前だったバブルの世相にも、似ていたと思う。
戯画的に言えば、自己啓発本とオンラインサロンで自分磨きをすれば、だれでもリッチな新しい生き方を見つけられて、仮想通貨と5G通信が無限のフロンティアを開いてくれて、そこでAIなんかを使っちゃったりしたら1日3時間労働でも楽々暮らせてウッヒョーッ! みたいな感じだった。
バブル期と同じく、そうした議論のほとんどは詐欺だったので(笑)、斎藤さんとの本では警鐘を鳴らすことに紙幅を割いている。ところがコロナ禍がやってくると、それらの潮流は社会パニックとの「悪魔合体」を経て、正反対のブラックな未来主義に転じてしまう。