昨今、欧州各地で深刻化する難民問題。その渦中で、パリの由緒ある劇場が思いがけない形で注目を集めることとなった。人道支援と経営存続の板挟みに揺れる、現代社会の縮図とも言える状況が浮き彫りとなっている。

 フランス・パリの文化施設「ゲテ・リリック劇場(Gaîté Lyrique Theater)」が、300人のホームレス移民による占拠を受け、閉鎖を余儀なくされている。この事態はすでに1カ月以上続いており、劇場は経済的危機に直面しているという。

突然の占拠、劇場の閉鎖へ

 占拠の始まりは、2023年12月10日に開催された無料イベント「フランスにおける難民受け入れの再考」だった。このイベントにはアフリカ出身の移民約250人が参加していたが、終了後も会場から立ち退かず、後にさらに約50人が合流した。これにより、ゲテ・リリック劇場は占拠され、予定されていた全ての公演が中止に追い込まれた。

 劇場の経営は大きな打撃を受けている。収益の70%を公演に依存している劇場は、12月だけで数十万ユーロの損失を出した。残りの30%は国の補助金で賄われているが、職員約60人の給与支払いにも苦労しているという。それにもかかわらず、劇場は「厳冬期に彼らを路上に追いやるのは考えられない」との声明を発表し、フランス政府および地元自治体に適切な避難所の提供を要請した。