読売新聞は「首相に対する世論の反応は冷たく、支持率回復に結びつかなかった。国家財政が窮迫する中での減税は『人気取りにすぎないと見透かされた』(自民党閣僚経験者)ことが大きいとみられる」と。
そうした指摘を閣僚経験者の裏声ではなく、責任を負って記者自身の筆でなぜ書かないのか。政権批判を閣僚経験者の裏声(匿名)で報道しておけば、政権、官邸などから批判を受けないで済むからでしょう。政治ジャーナリズムの常套手段です。お茶を濁すの類でしょう。
世論調査によると、「物価高による家計の負担を感じていますか」の問いに「多いに感じる49%、多少は感じる37%」(読売、10月16日)で、86%が物価高に不満を持っています。ついでにいうと「多少は感じる」の「多少」の語感はよくない。「ある程度」が正しいのです。
さらに衆院の解散・総選挙については「来年度以降に行う33%、再来年秋の任期満了まで行う必要がない31%」が首相の思惑に反対なのです。首相のいう「車座の対話政治」が本心なら、世論の動きをみて、4年間の議員任期を全うする選択こそすべきなのです。
選挙をやるたびに、財政面からあの手この手の政策を打ち出し、財政状態が悪化する。しかも首相は「税収増を還元する」と胸を張りました。実際には税収は伸び悩んでおり、鈴木財務相が「減税すればその分、国債の発行が必要になる」と白状するありさまです。
さらに納税者全員に一律4万円(所得制限なし)、低所得層(課税最低限以下)の世帯には7万円の給付金を支給するといいます。低所得層向けにはいいにしても、定額減税までしたら、需要が増え、物価押し上げ要因なる。物価高対策費が物価を押し上げる。経済理論家はそういっています。
個人が持つ金融資産は22年に2023兆円で史上最高を更新しました。2020年は1870兆円でした。個人の現預金は22年は1100兆円、20年は1030兆円でした、3年で80兆円も増えています。そうした世帯向も定額減税の対象とすると、高所得層の場合は、国債がかれらの貯蓄に回るだけです。
岸田政権の経済政策の混乱ぶりは目に余ります。一方、異次元金融緩和の軌道修正が小出しの繰り返しで、大規模緩和が長期化するとみられて、相場は1ドル=151円まで値下がりしています。外国ファンドが低金利の日本で資金を調達して、外貨で運用すればボロ儲けできる。
ドル建てでみた日本の経済力は低下の一途です。GDPの国際ランキングでは、ドイツに抜かれて4位に転落です。26年には現在6位のインドが日本を抜いて5位に浮上する見通しです。政府、日銀が円安政策をとってきたため、輸入物価が上昇し、国際比較したGDPは下落する。
解散などを念頭に置かず、4年の任期満了を全うする方向に気持ちを切り替えたほうが、内閣支持率は上がるかもしれません。あわせて政治ジャーナリズムも目覚めてほしいのです。
編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2023年11月11日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。
提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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