欧米メディアによると、駐ロシア米国大使館は3月7日、ロシア側にイスラム過激派グループによるテロの危険が差し迫っている可能性があると通報したが、ロシア側はその警告を無視したという。実際、プーチン大統領は19日、国内治安情報担当者との会合で、「米国からテロの危険を警告する情報が入っているが、米国はわが国を恐喝し、ロシアを不安に貶めようとしている」と逆に米国を批判した。ちなみに、米ホワイトハウスは「関連のテロ情報を全てモスクワに伝えた」と報じている。

ISはシリア、イラクでの拠点を失い後退したが、今回テロを実行したのは、隣国のアフガニスタンで活動しており、パキスタン近くのホラサンに拠点を置いているイラク・レバントのイスラム国(IS)関連組織「イスラム国ホラサン州」(IS-K)だ。「ホラサン州」は1月3日、イラン南東部ケルマン市で100人余りを殺害、数百人以上の負傷者が出るというテロ事件を起こしたばかりだ。

英国のキングス・カレッジ・ロンドン(KCL)で教鞭を取るテロ問題専門家のペーター・ノイマン教授は、「IS-Kは現在最も活発なテログループであり、その起源はアフガニスタンで、過激で暴力的なジハーディスト(イスラム聖戦主義者)武装集団だ。おそらく現在、西側諸国で大規模なテロ攻撃を実行できる唯一のIS分派だ」と説明している。IS-Kにはアフガンやタジキスタン、ウズベキスタンなどからリクルートされたジハーディストたちが集まっている。

同教授は23日、ドイツ民間ニュース専門局ntvとのインタビューで、今回のISのテロ犯行声明について、①犯行声明を出したチャンネル(アマック)はISが通常利用しているものだ、②テロのやり方はISだ、③米国が事前にISのテロの脅威を警告していた、等の3点を挙げ、IS犯行声明は間違いないと述べている。ISはシリアではロシアと戦い、ロシアのコーカサス地域でも活動している。

ISは今年に入り、イランとモスクワでテロ事件を行ったことになる。イラン革命後、最悪のテロ事件となったケルマンのテロ事件の場合、ISはイランの大半を占めるシーア派住民をイスラム教からの背教者とみなし、彼らを軽蔑している。スンニ派過激テロ組織のISによるシーア派の盟主イランへの攻撃という構図が浮かび上がる。

それではISはなぜモスクワでテロ事件を犯したのか。考えられるシナリオはロシア軍のシリア内戦でのISへの攻撃に対する報復だ。すなわち、イランのケルマンのテロ事件とモスクワのテロ事件を繋ぐ共通点はシリア内戦だ。ISはイラン革命防衛隊(IRG)司令官だったカセム・ソレイマニ将軍の命日である1月3日の追悼行事中にテロを行った。ソレイマニ司令官はシリアの内戦でIS攻撃の中心人物だった。

モスクワのテロ事件は明らかにISの仕業だ。西側批判を強めているプーチン氏は、ISが異教徒への戦闘を呼び掛けてきていることを見逃している。IS分派は今年に入り、イランのケルマンとロシアのモスクワで大規模なテロを行った。両国とも反米主義、反西側世界を掲げている国だが、同時に、イランはシーア派であり、モスクワは正教国だ。スンニ派過激組織ISにとっては異教徒だ。ISはここにきて異教徒への敵意を強めてきているのだ。

ちなみに、米国の政治学者イアン・ブレマー氏はソーシャルメディアプラットフォーム「スレッド」とX(旧ツイッター)の中で、国家安全保障分野におけるロシア指導部の一連の失敗を「驚くべきこと」と呼んでいる。プーチン大統領は過去2年間で3つの大きな誤った判断を下したという。具体的には、プーチン大統領は、①ウクライナを短期間で制圧できると信じた、②同国の民間軍事会社「ワグネル」の創設者エフゲニー・プリゴジン氏(当時62)の24時間内乱を事前に抑えることができなかった。③差し迫ったテロ攻撃に関する米国諜報情報を拒否し、ロシア国民を守ることに失敗した。安保対策でプーチン大統領の弱点が表面化してきている、という指摘だ。

プーチン大統領は、クロッカス市庁舎でのテロ攻撃で死亡した人々の追悼の意を表した。クレムリンHPより

編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年3月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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