赤ちゃんには「迷惑」という発想自体がない

このように、前提となる考えが異なると人の行動は変わってくる。だがそもそも「人に迷惑をかけてはいけない」という考えは一体どこからきたのだろうか。

生まれたばかりの赤ちゃんには「迷惑」という発想自体がない。

ということは「人に迷惑をかけてはいけない」という考えは、後天的に身についたものだ。たいていは、幼少期に両親や学校の先生をはじめとした大人や社会に影響されたのだろう。問題は生きていくなかで身につけたこの考え方が、必ずしも正しいとは限らないということだ。

先程の仕事の依頼で言えば、部下によっては「コピーすら頼んでもらえなかった…」とか「コピーはやるから、会議でこの企画を通すことに専念してくれ」と考える部下もいるだろう。つまり「部下に仕事をお願いしたら迷惑をかけて嫌われる」という考えは、その部下にとって必ずしも正しいものではないのだ。正しくは「そういう時もあるし、そうでない時もある」だ。

にもかかわらず「他者に迷惑をかけてはいけない」と一本気に生きているとどうなるか。周囲に仕事を依頼することができず、他者を巻き込んで仕事を進める人と比べて仕事の生産性や効率に大きな差が生まれてしまう。

アランの言う「不安になったときに浮かぶ思考を信じてはいけない」の理由はここにある。「嫌われたらどうしよう」とか「ほかの人の仕事の手を止めさせてしまったらまずいな」と不安を感じたときに浮かぶ考えや思考を絶対的に正しいと信じていると行動の選択肢が制限されてしまうのだ。

そうすると仕事の生産性も下がり、さらに余裕がなくなり負のスパイラルから抜け出すことができなくなる。長時間労働から抜け出せないときはまさにこの状態だ。必ずしも正しくない考えに縛られ自分の行動を変えられず、その結果いつまでたっても働き方を変えられない。

不安を感じたときに生じる思考や感情を疑う習慣をもつ

ならば、どうしたらいいのか。それは不安を感じたときに生じる自分の思考や感情を疑う習慣をもつことだ。そう、アランが私に教えてくれたように「不安がなければどう考える?」と自分に聞いてみればよい。

先日もセミナーの受講生から「社内の偉い人にメールする必要があったのだが不安になってかなり表現に気を使ったり、内容を精査したりして随分と時間をかけてしまった。今思えばあそこまでやる必要はなかったと思う」という話があった。

送った相手から「こんな内容ではわからん!」と叱責される心配が浮かんだという。「偉い人へのメールは丁寧に打たないと注意される」という考えは、未だに私でさえ頭をよぎることはある。これ自体は自然なことだ。

大切なのは「不安がなければどうするか?」と自分に問いかけてみることだ。そうすると、メールの書き方が「叱られない丁寧な文章」という視点から「用件を明確に伝える」という視点に変わるはずだ。その結果「いつも通りのメールの書き方で問題ない」という答えが自分に返ってくるだろう。

冷静に考えればあたり前だ。普段から「君のメールは意味がわからない」と言われているなら別として(その場合は違う練習が必要だ)、そうでなければ用件を相手に伝えることに緊張はいらない。

では君が上司の立場で、受信する側だったらどうだろうか。文章が丁寧すぎて長いメールを見たら「時間がもったいない。もっと簡単に報告してくれ」と思うのではないだろうか。こうして考えてみると「偉い人へのメールは丁寧に打たなければ…」というのは、必ずしも正しくないことがわかるだろう。

不安をベースに仕事していると、タスクはどんどん過剰になる

不安がなければどうするか? これは「冷静に考えよう」と同義と言える。不安を取り除いた状態という、より明確なイメージで自分に問いかける習慣をもっていれば結果冷静な対応ができる。

こうした不安からくる「念のため」にしていた不要な行為はほかにも見られるのではないだろうか。昔の私のように口頭で話せば5分ですむ話を「相手の時間を奪ってはいけない」と考えてメールにしたり。同僚が過去に集めた資料を見せてほしいとお願いしたいが「不快にするかも」と自分でいちから集めたりするなど。

不安をベースに仕事をしていると、タスクはどんどん過剰になっていく。「不安がなければどうするか?」と考え行動する習慣があれば、仕事は大胆に減らすことができる。仕事のスピードも格段に上げることが可能となる。

君には仕事に限らず、不安を原動力に行動しないことを提案したい。たとえば同僚が資格試験の勉強をしていたり、MBA(経営学修士)を取るためにビジネススクールに通っていれば焦りや不安が生じることもあるだろう。

そんなときも「不安がなければどう考える?」と自分に問いかけ、出てきた答えに勇気を出して身を委ねてみてほしい。その答えは「アイツとは求めるキャリアが違う。自分にMBAは必要ない」かもしれないし、「資格より人脈づくりの場に多く顔を出すようにしよう」かもしれない。

他者との比較ではなく、自分自身のライフプランとして現実に即した選択肢で行動すればよい。神様は勇気を出して行動した人を見捨てたりしない。少なくとも私はそう考えている。

滝川 徹(タスク管理の専門家) 1982年東京生まれ。慶應義塾大学卒業後、内資トップの大手金融機関に勤務。長時間労働に悩んだことをきっかけに独学でタスク管理を習得。2014年に自身が所属する組織の残業を削減した取り組みが全国で表彰される。2016年には「残業ゼロ」の働き方を達成。その体験を出版した『気持ちが楽になる働き方 33歳大企業サラリーマン、長時間労働をやめる。』(金風舎)はAmazon1位2部門を獲得。2018年に順天堂大学で講演を行うなど、現在は講演やセミナー活動を中心に個人事業主としても活動している。

■効率を追求しても長時間労働からは抜け出せない(滝川徹  時短コンサルタント)
■「あの件どうなった?」上司の進捗確認で仕事を中断されないためのコツ (滝川徹  時短コンサルタント)
■ビジネスで「即レス」を心がけてはいけない理由 (滝川徹  時短コンサルタント)
■「今、ちょっといい?」仕事 の中断を激減させる小さな習慣 (滝川徹  時短コンサルタント)
■「今日受けた仕事は原則、明日以降に取り組む」だけで仕事が回りはじめる理由 (滝川徹  時短コンサルタント)

編集部より:この記事は「シェアーズカフェ・オンライン」2024年5月1日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はシェアーズカフェ・オンラインをご覧ください。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

【関連記事】
「お金くばりおじさん」を批判する「何もしないおじさん」
大人の発達障害検査をしに行った時の話
反原発国はオーストリアに続け?
SNSが「凶器」となった歴史:『炎上するバカさせるバカ』
強迫的に縁起をかついではいませんか?