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スポーツドライビングは、クルマとドライバーの対話であり、闘いである!
安全かつ確実に、スーパースポーツの限界ギリギリの性能を引き出すにはどうしたらいいのか。そのほとんど唯一の答えが、クルマの限界点をわかりやすく知らせるロードインフォメーションにあると信じている。
自分がいま、崖っぷちにどれだけ近づいているのか。もしくは、崖っぷちからどれだけ離れているのか。正確に認識できれば、奈落の底に落ちる心配はない。サーキット走行も同様である。自分のペースがクルマの限界にどれだけ近づいているのかを理解していれば、スピンしたりコースアウトしたりすることはない。つまり、安心して「崖っぷち」にトライできる。私は、ロードインフォメーションの量と質が、スポーツカーにとって重要な性能のひとつであると捉えている。
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システム最高出力1030psを誇るV8ツインターボ+モーターのPHEVスポーツ、フェラーリSF90XXストラダーレの国際試乗会は、ロードインフォメーションの量と質を試す絶好の環境で行われた。
SF90XXは饒舌かつ圧倒的なパワーで語りかけてきた!
試乗会が行われたのはフェラーリのテストコースとして名高いフィオラーノ・サーキット。当日は前日からの雨で路面がじっとりと湿っていた。基本的にトラック専用マシンであるモンスターと対峙するのに、これほど緊張するコンディションはない。
先導車を操るフェラーリのテストドライバーは勢いよくコースインしていった。私に選択の余地はない。彼との距離を1㎝でも縮めるべく、スロットルペダルをフロアまで踏み込んだ。
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SF90XXは、想像していた暴れ馬ではなかった。頭脳明晰なトラクションコントロールが私に気づかれないように介入したのだろう。タイヤを空転させることもなければテールを左右に振り出す素振りも見せず、まっすぐに、けれども恐ろしい瞬発力(0→100km/h加速データは2.3秒)を発揮しながらメインストレートを加速した。
クルマの感触を確認する暇もなく、目の前に1コーナーが迫ってくる。さすがにこのときは丁寧にブレーキングしてステアリングを切り込んだが、気がつけば先導車はもうS字コーナーを目指して加速を始めている。私は、またスロットルペダルを深々と踏み込んだ。
その瞬間、目の前に「重力の落とし穴」が現れ、そこにクルマもろとも吸い込まれる圧倒的な加速を味わった。SF90XXは、1コーナーの立ち上がりで初めて本来のV8ツインターボと3モーター式PHEVシステムの底力を初めて解放したのである。
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このクルマが素晴らしいのはロードインフォメーションの質、そして量の豊富さである。おかげで、1ラップ目のS字コーナーで早くもリアタイアが「むずがり始めている」ことに気づいた。そこから左にステアリングを切り込めば、フロントタイヤのグリップが抜けかける様子がステアリングを通じて伝わってくる。しかも、どちらも実際にタイヤが滑り始めるはるか手前から私に注意を促してくれる。これほどマージンが与えられれば、「モンスターの正体も暴ける!」 そんな期待に、胸を膨らませた。
さらなる驚きは、フィオラノの裏ストレートに設けられた緩いキンクを通過したときにやってきた。高速でクリアするこのセクションではボディが軽く浮き上がるような感触が伝わってくる。これまでであれば強く減速していた。
だが、SF90XXは強大なダウンフォースのおかげでタイヤの接地感が薄れない。これほど自信をもって裏ストレートをクリアできたのは、文字どおり初めてだった。
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もともと「XX」はサーキット専用のフェラーリに与えられる特別なモデル名。SF90XXは、XXモデルでありながら公道走行も可能とした点に最大の特徴がある。だがサーキットが本籍地であることに変わりはない。だからフェラーリはSF90XXに最高レベルのロードインフォメーションを盛りこんだのだ。ここにフェラーリの真骨頂が現れている。世界で最も「いい汗」がかけるスーパーな1台である。
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提供元・CAR and DRIVER
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